この悪目立ちに加えて、「高級食パン」に対する世間の風当たりの強さには、もうひとつ大きな原因があるのではないかと個人的には考えている。
それは「主食は庶民に行き届くように良心的な価格で売るべし」という日本社会の暗黙のルールだ。これが発動しているので、一般的な食パンの5倍近い高価格を「ぼったくり」だと感じてしまう。多くの人が「高級食パン」に対してうっすら感じている、言葉でうまく説明することができない嫌悪感のもとになっているのではないか。
と聞くと、「日本人の主食はパンじゃなくて米ですよ、そんな常識も知らないんですか」というツッコミが入るかもしれないが、総務省統計局の家計調査によると、14年から21年まで8年連続で、1世帯当たりのパンの支出額が、米の支出額を上回っている。
実はデータ的には、日本人の主食はずいぶん前に米からパンにとって代わっているのだ。
なぜこうなるのかというと、日本人の3割を占める高齢者が米食からパン食に進んでいることが大きい。ご高齢の親などがいる人は分かるだろうが、実はシニアほどよくパンを食べている実態がある。先ほどの家計調査をみると、最も食パンを購入している単身世帯では、34歳以下よりも60歳以上の高齢者のほうがかなり多いのだ。
さて、このような日本の現状を踏まえて、国民の「主食」であるパンが高額で売られたら、庶民がどんな反応になるだろうか。ヤマザキパンやパスコの良心的な価格の食パンの5倍もする高額なものが扱われ、しかもその店には「夜にパオーン」なんて意味不明な言葉がデカデカと掲げられているのだ。
イラッとする人があらわれるのも、しょうがないのではないか。中には、「他の真面目なパン屋と比べて、そこまで劇的に味が変わるわけじゃないのに、ずいぶんとふっかけるじゃないか」なんて感じで「ぼったくり」という感想を抱く人も出てくるだろう。
つまり、高級食パンへの強い風当たりは、「主食は庶民に行き届くように良心的な価格で売るべし」という日本人が大切にしてきた暗黙のルールに対して、ケンカを売るような構図になってしまったでことが大きいのではないか。
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