白樺は白ワインみたいな味? 「木で造る酒」の商品化に向けた取り組みが熱い桜の木は“ピンク色”の酒に(2/4 ページ)

» 2022年04月06日 06時00分 公開
[太田祐一ITmedia]

 木材はリグニン、セルロース、ヘミセルロースの3つの成分からできているが、セルロースとヘミセルロースの繊維は、リグニンで作られた細胞壁に覆われている。酒の製造に必要なセルロースだけを取り出すには、リグニンを溶す必要があるが、従来の方法では薬品を使用するため、飲み物にすることはできなかったという。

 そこで、大塚氏が考えた秘策が「湿式ミリング処理」だ。顔料・インク・ペンキなどの分散・撹拌(かくはん)時に利用する「湿式ビーズミル」という装置を木材に使用するという。

 この機械を使用すれば、木材をナノサイズまで粉砕でき、2〜4マイクロメートルの厚さがあるリグニンの細胞壁だけを破壊して、セルロースを取り出すことが可能になったのだ。

 リグニンの細胞壁が破壊されると、セルロースとヘミセルロースが露出し、固まらずにドロッとした液状の「木材スラリー」が排出される。そこに、市販の食品用セルラーゼを投入し、セルロースをブドウ糖に分解。アルコール用の酵母を入れ発酵させて完成したのが「木の酒」だ。

桜の木を使用すれば“ピンク色”に変化

 研究段階で開発した「木の酒」には、ワイン用と日本酒用の酵母を使用。スギ、白樺、桜、山桜、水楢、クロモジを使って、醸造酒と蒸留酒を造った。面白いのが、醸造酒は発酵直後全て薄黄色だが、熟成とともにその木材にあった色に変化していった点だ。

 「桜はその花の色のように、時間がたつほど赤くなっていきました。3カ月たった頃には、きれいなピンク色だったのですが、1年たつと真っ赤。樹種によって色の変化はさまざまです」(大塚氏)

 研究段階のため飲酒はできなかったが、筆者も香りをかがせてもらった。樹種によって香りが異なり、「桜の酒」は桜餅のような匂いがした。大塚氏は「白樺やクロモジはフルーティーな白ワインのような味だったが、スギは匂いが結構強烈だった」と話す。

木の酒 試作品の“木の酒”木材によって香りや味に違いが

 開発した醸造酒のアルコール度数は1%だが、えぐみがあるのが難点だ。そのため、蒸留酒の方が製品化に向いているという。

 歩留まりが良いのも特徴で、木材の種類によって異なるが、例えばスギだと2キロの木材でウイスキーボトル1本分の蒸留酒(アルコール度数35%)が製造できる。大塚氏は「立派に育ったスギ1本で200本以上のウイスキーが造れます」と話す。

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