ところで、アメニティーバーは清掃スタッフの人件費を削減できると述べたが、とあるホテル運営会社によると、別の人件費に悩むという。アメニティーバー付近で時々見られるのが、“ひとり1つまで”といった注意書きだ。ホテルによっては“アメニティーバイキング”という表現も見かけるが、バイキング=食べ放題ゆえに取り放題というわけではもちろんない。
ところが、スタッフの目を盗んでごっそりとピックアップしていくゲストに頭を悩ませるホテルの声を時々耳にする。“こっそり”“ごっそり”である。多めならまだしも(それでも問題ではあるが)、もはや“盗む”という表現がふさわしいほどの行為も見られるのだとか。“お土産需要”と皮肉を込めて話してくれるスタッフもいた。自宅で自身が使用するのならまだしも、ネットの個人売買サイトで出品されていたらホテルとしてはやりきれないだろう。
スタッフが少なくなる(時にフロントに立たなくなるような)夜間だけアメニティーバーを撤去したり布をかけたりするホテルも見られるが、アメニティーバーと人件費について話してくれたホテルでは、終夜大浴場を開放しているのでそうもいかず、スタッフを多めにしているという。
プラスチック削減の話からコストカットや盗難まがいの話題になってしまったが、これがプラスチック新法にまつわるリアルな現場のひとつといえる。ESGやSDGsはその動きが広がるために企業の利益と結びつくことが重要とされるが、ゲスト目線でいえば、いかに慣れるのかに尽きるであろう。
あったらうれしいけど無くても困らない、「ホテルにアメニティーは無いもの」という前提で持参することに慣れていけば、ホテルサービスという点では解決していく問題なのだろうか。
瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)
一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。
日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。
著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。
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