このように民間ステーブルコインの取り組みが増加する中で、内田氏が懸念するのが「ステーブルコインの発行者は、デジタル決済そのものではなかなかもうからない」という点だ。発行業務や決済業務自体では利益が出ないため、プラットフォーマーとなってデータ利用や広告で収入を得たり、顧客を囲い込んで加盟店手数料を取るという形を取る。
これはクレジットカードやコード決済などの決済事業者においては一般的なビジネスモデルだ。しかし、ステーブルコインにおいては「決済システム全体としてみた場合、細切れ化(フラグメンテーション)や独占といった問題が深刻になっていく可能性を無視できない」と内田氏は指摘する。
ならば、もうからないステーブルコインの発行は中央銀行がCBDCとして行い、民間事業者はCBDCの上にさまざまなサービスを載せて提供するという方法もあり得る。「安全性と相互運用性という全体利益の対価なので、これを非競争領域として、金融界あるいはより広く社会全体で提供していくということもひとつの選択肢だ」(内田氏)
なお、CBDCは紙幣と違いデジタル化されているため、技術的にはマイナス金利を実現することも可能だ。これは保有しているCBDCの額が、例えば毎年1%ずつ自動的に減少するような仕組みを指す。日銀は現在、金融機関が日銀に預ける当座預金に対してマイナス金利を適用しているが、より広い対象に対してマイナス金利を適用することで、お金が消費に回り経済の活性化につながるという意見がある。
これに対し、内田氏は「こうした観点でCBDCを導入することはない。そうした『動機』に、国民的合意が得られるとは考えられないし、実務的にも、現金が並存することを考えると現実性がない」とした。
また、CBDCの技術的な検証は引き続き進めるものの、「日本銀行は、CBDCを発行するか否かについて、決定していない」と改めて強調。「日本銀行あるいは金融界だけで決められることではなく、国民的な判断になる」と話した。
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