なぜJR東海は、わざわざ奈良でキャンペーンを始めたのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/9 ページ)

» 2022年05月23日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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奈良県観光業界の期待

 奈良キャンペーンのリニューアルを奈良の観光業界はどのように受け止めているだろう。JR東海と連携する窓口は観光DMO(観光地域づくり法人)「奈良県ビジターズビューロー」の専務理事、中西康博氏だ。「奈良県ビジターズビューロー」は09年に発足した。それまで中西氏は奈良県職員として、JR東海のキャンペーンの開始時から関わっている。

 「リニューアルするという話を聞いたときはちょっと不安なところもありました。実はその前に、キャンペーンが終るといううわさもありまして。なにしろ景気が悪い。新幹線のお客も減ってる。ところが新キャンペーンでしょう。ホッとしました。鈴木亮平さんのCMを拝見したときに、よかった……と思いました。東大寺、そして二月堂。あそこは夕陽がとてもきれいなんです。映画の寅さんの第1回にも出てましてね。奈良で最もオススメしたいところのひとつです」(中西氏)

 二月堂は東大寺境内の高台にあり、奈良の景色を一望できる。ここで行われる「お水取り」の儀式は大仏の開眼から1300年以上も途絶えていない。日本の国宝で唯一、24時間参拝できるところでもある。

 「『奈良は行くから面白い』という言葉も良かった。奈良は風を感じるところ。心で見るところ。写真や動画では伝わらない魅力を語ってくれているような気がします。奈良は夜と朝がいいんです。夜の東大寺は真っ暗ですが、それでいて怖さがない。ふと、なにかあたたかいものとすれ違った気がする。私たちはそれを『神さんが来た』と思っています。そして朝の奈良公園。鹿さんは春日大社から通勤(笑)してきて、夕方になると春日大社に帰宅します。鹿さんのいない景色とその清々しさも感じてほしい」(中西氏)

 そういえば19年に奈良観光協会のポスター「泊まれ」「日帰りなんてマジカ」が話題になった(参照記事)。16年から掲出したポスターがネットでバズった。そこには「大阪から来た観光客が日帰りしてしまう」「遠方からの観光客が京都に泊まってしまう」という悩みがあった。

 「観光客のみなさんは、寺社や歴史を感じようという勢いでいらっしゃいます。その目的を達したあと『ここに何があるんだろう』と、放り出されてしまうのではないか。寺社以外の魅力を発信していこう、という思いは私たちもあります。奈良県観光公式サイトとして「あをによし なら旅ネット」を開設しまして、自治体公式サイトとして7位のアクセス数だそうです。今後は物販や現地体験のオンライン予約にも力を入れています」(中西氏)

 「寺社観光プラスワン」が必要、という部分で、JR東海と奈良県の観光関係者の思いは一致している。「いざいざ奈良」の意図は通じた。

東大寺二月堂からの眺め。補修工事のブルーシートのほかは1300年間も変わらない景色
奈良の朝と言えば奈良公園の鹿寄せ。ホルンを鳴らすと八方から鹿が集まる。宿泊して朝を迎えなければ観られないイベントだ
街から見える興福寺五重塔。もうすぐ120年ぶりの大修理が始まる。名刹のライトアップは22時まで。そのあとの闇も趣があるという。これも宿泊者ならではの楽しみ

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