クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

営業利益11倍に マツダ地獄からの脱出、最終章池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2022年05月23日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

SKYACTIVの誕生

 苦難の果てにマツダがひねり出したのがSKYACTIVである。一括企画で全車種のベースを作り、それを展開しながらバリエーションを作っていく。

 そう書くと部品の共用化のように聞こえるだろうが、マツダが目指したのはそこではない。数理的な基礎データの共有である。スーパーコンピュータを使ったシミュレーションで、エンジンならエンジンの燃焼特性を解析し、その理想値が再現できるようにハードパーツを設計していく。それがマツダのコモンアーキテクチャーである。

 狙いは「基礎特性を相似形にそろえる」ことであり、物理的なパーツの使い回しではない。同じ原理原則を採用することで、性能のブレを防ぎ、全製品のレベルを高める。試作を繰り返すようなトライ&エラーが減って、行きつ戻りつしないで製品が作れる分、結果的にコストが下がるはずだ。

 そうやって基本となる特性の部分を完全に固定して使い回し、それ以外を変動させて「商品ごとの個性」を出して行く。マツダが繰り返し主張してきたMBD(モデルベース開発)の「固定と変動」とはそういう意味である。

 こうして「MBDで基礎特性を相似形にする」ことでコンポーネンツ群を一斉開発したマツダに対し、同じくフォード傘下にあり、これもまた同じく独立を余儀なくされたという局面にあったボルボもまた、マツダ同様にコモンアーキテクチャーを採用した。しかし、当時は各社ごとに「コモンアーキテクチャーの解釈」が異なっていた。よくよく聞いていくとボルボのコモンアーキテクチャーの中身は「部品共用化を徹底追求する」モジュール化のことだった。ボルボは、マツダでいう「SKYACTIV」にあたる「DRIVE-E」を開発した。

 当時は、モジュール化はモジュール化で合理的な考えであり、筆者もマツダとボルボの定義の違いを理解しつつも、どちらが正解か判断が付きかねていた。しかし今となってはマツダ方式が正しかったと言える。

 ボルボは、同一ブロックを使う4気筒のガソリンとディーゼルの双子エンジンを、自然吸気、ターボチャージャー、スーパーチャージャーなど、デバイスの追加でシステムアップすることで、小さいクルマから大きいクルマ、ベーシックモデルからプレミアムまで、出力グレード別のエンジン群を構築し、一時的には売り上げを伸ばし、成功に導いた。

 しかし、排ガス測定モードがWLTPになったことで、テストモードのプログラム中で、従来より高い加速度を長時間求められるようになる。ボルボの出力追求型の過給システムでは、燃焼効率の最適化を追究したマツダほどCO2排出量が減らせなくなった。さらに、ブロックの共用を大前提にすれば、燃焼室の設計が自由にできない。ボア寸法に縛られ、燃焼効率が理想化できないのだ。だからおそらく、ボルボが後に「オールBEV化」を宣言し、内燃機関からの撤退を発表したのは、自ら「DRIVE-E」の失敗を悟り、今さら第2世代の「DRIVE-E」を開発する余力がない故の戦略だと筆者は思う。

 さて、マツダの話に戻る。製品の魅力向上を果たしたとしても、単独になったマツダは以前のように規模の大きさでは戦えない。冷静に見れば自動車メーカーとしては販売台数は多い方ではなく、しかしながらグローバルな商品展開のためには車種はどうしても多くなる。宿命的に多品種少量のビジネスから逃れられない。

 何よりも手元に金がないのに、たくさんの車種を作らなければならない事情があるので、コストは掛けようがない。しかし、金が無いからといって、競争力のない凡庸なコンポーネンツを間に合わせで作っても生き残れるはずがない。だから必死で、コストダウンと良品を両立するブレークスルーを考え抜き、針の穴を通すようにして見つけた答えこそが、先述のMBDによるSKYACTIVだったということである。

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