クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

営業利益11倍に マツダ地獄からの脱出、最終章池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2022年05月23日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

高付加価値による良品適価

 さて、そうして15年に、「クルマを構成する全てがSKYACTIV化された」モデルとして「初代CX-5」がデビューした。この世代のクルマをマツダは第6世代と呼ぶ。結果を見れば、第6世代から、ハードの性能は狙った通りよくなった。究極的な理想は遙かな高みにあるが、現状のベストエフォートとしてハードウエアとしては十分戦えるものができた。それは多くの読者の知る通りである。

大ヒットとなったミドルサイズSUVの「CX-5」。2代目になった現在では、マツダの販売台数の3分の1を占める

 次はブランドイメージの向上だ。最終的なゴールはブランドイメージを上げて「良品適価」で売ることだ。小規模メーカーとして生きて行かざるを得ないマツダには、大量生産による薄利多売の選択肢は初めからない。

 フォード傘下にいた時は、親会社から「この性能はクラス平均でいい」などという指示が普通に飛んで来た。規模の大きいフォードグループは数の力で戦える。同じコンポーネンツをフォード傘下の数多くのブランドでシェアして、廉価で売れば勝ち抜ける。

 だから、金を掛けないことは重要な競争力の源泉だ。しかし、本能的に良いものを作りたいというエンジニアにとって「クラス平均でいい」とは冷や水を浴びせる言葉だ。並みの製品で良いから安く作れといわれて、モチベーションを高く保てるエンジニアはいないだろう。

 だから独立後のマツダのエンジニアたちの中には、そうした過去の仕打ちへの反骨心もあった。エンジニアとして最良を目指す開発をして、良心に恥じぬ良いクルマを作りたい。ただし、フォード傘下で非プレミアムなブランドとしてイメージを定着させて来たマツダの立場は案外難しい。すでにしつこく書いてきた通り、絶対的な販売台数が少ない中で、多品種少量を成り立たせるためには、薄利多売による良品廉価は不可能である。かといってプレミアムを自称したところで、パブリックイメージとのズレが大きい。だから目指すとすれば良品適価しかない。

 良いものを作れ。ただし高級品ではなく、アフォーダブル(手頃)であることを忘れるな。手頃かつ良いクルマ。新生マツダは、それを安売りしないでキチンと売る。それこそがマツダが目指した良品適価である。

 その第一歩は製品がよくなければ話にならない。だからSKYACTIV導入で商品力を向上させた。その上で値引きをしない正価販売を打ち出す。実際には1円も値引かないわけではないが、値引きを武器にしてクルマを売らないということだ。一人一人の顧客に、ちゃんとクルマの良さ、魅力を分かってもらって適正な支払いをしてもらう。だからこそ顧客が実感できるクルマの良さは絶対に必要なのだ。

 その道のりは長かった。少ないリソースの中で、時間を掛けて1車種ずつフルSKYACTIVの車両を増やしていき、それが行き渡ってからは、第2ステップとなる第7世代SKYACTIVへとさらに商品力の向上を進めた。その第2ステップの後半こそが、今注目を集めているラージプラットフォームの直6縦置きFRを主軸とした商品群である(詳細解説記事)。

 さて、こうして長い時間を掛けてマツダは、一歩一歩高付加価値販売の実現に歩みを進めてきた。戦術の具体的目標は中古車価格の維持にある。マツダ地獄を脱出すれば、全ての回転が良い方に回る。その地道な活動の詳細は過去の記事「自動車を売るビジネスの本質 マツダの戦略」に書いてあるので、気になる方は参照していただきたい。主要部分だけ箇条書きで書いておこう。

  • 新車を値引かない
  • 地域価格差を利用して中古車を高く売れるエリアで売るためのWeb活用
  • 残価設定クレジットの残価率の引き上げ
  • メンテナンスパックの活用により記録簿の整った筋の良い中古車を増やす
  • 自社運営のスカイプラス保険の特典で、年1回の板金修理サービス(条件あり)によって美観を引き上げる
  • 販売店の内外装リニューアルと人材育成によるサービス向上

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