「サーモン」輸入にウクライナ侵攻の影響 それでもスシローやくら寿司が大きく慌てていない理由長浜淳之介のトレンドアンテナ(1/5 ページ)

» 2022年05月31日 18時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

 2月24日に始まったロシアのウクライナ軍事侵攻が、サーモンの輸入に大きな影響を与えている。なぜなら、日本のサーモンの主要な輸入国の1つ、北欧のノルウェーからの空輸便が、ロシア領内のシベリア上空を飛ぶことができず、迂回を強いられているからだ。

 そのため、サーモンを大量消費する回転寿司各社では、チリ、カナダ、英国など、他の国々からの輸入を増やしている。また、国産のサーモンを使う動きも出ている。

 ノルウェー産サーモンの和食、特に寿司への貢献度は高い。今や、マグロと並んで人気の寿司ネタであるサーモンだが、ノルウェー産が登場するまでは、寿司ネタとしてサケは使われていなかった。

 天然のサケは、アニサキスなどの寄生虫の問題があり、生で食べることはできない。古来より和食ではサケは焼いたり鍋にしたりと、加熱して食べる魚だったのだ。

 生食用サーモンを巡る、ノルウェーなど海外産、国産の動向をまとめてみた。

量は確保できている

 世界の養殖サーモン生産量は2021年に320万トンに達したが、シェアの45%をノルウェー、25%をチリが握るといわれる。最大産地のノルウェーの動向がいかに重要かが分かる。

養殖場で泳ぐノルウェーサーモン(提供:ノルウェー水産物審議会、以下同)

 なお、日本のサーモン市場は、国産はわずか2割で、8割を外国産が占めている。日本の場合、農林水産省の調べによれば(22年1〜3月)、サケ・マスの輸入は数量ベースで、1位のチリが約74%と圧倒的で、2位のノルウェーは約13%となっている。

 ノルウェー産サーモンの供給に関しては、結論からいうと、数量ベースでは既に回復してきている。しかし、迂回路によるコスト高のため、金額ベースでは2桁増となっている。

 ノルウェー水産物審議会 日本担当ディレクター ヨハン・クアルハイム氏への取材から、ノルウェー産サーモンの現状を報告する。

 ロシアのウクライナ侵攻開始直後に、ロシア上空が閉鎖されたため、ノルウェーから日本に直行便で輸送されていた「ノルウェーサーモン」(アトランティックサーモン)や「フィヨルドトラウト」(ニジマス)は迂回路を通らなければならなくなった。既に日本に向かっていたサーモンは、他の便に振り替えられ、一部は他の国で販売された。

ノルウェーサーモンの養殖場

 侵攻開始後1週間のノルウェーから日本へのサーモン輸出量は、前年同期比30%減にまで落ち込んだが、数週間で数量的にほぼ回復した。

 しかし、迂回により飛行機に多くの燃料を費やすため、22年の18週間における日本向けノルウェー産サーモンは、数量ベースでは同12%減の1万3526トン、価格が同12%増となった。数量の減少分は主に「スポット価格」で販売されるサーモンが減っていることに起因する。

 しかし、日本の輸入業者の多くはノルウェーの業者と長期の契約を結んでいるため、他の近隣国に比べれば価格上昇を抑制できている。例えば、韓国の場合、数量は同13%減の1万2966トンとなったのに対して、価格は同28%増と価格上昇が著しい。

 迂回路は、ノルウェーの首都オスロとデンマークの首都コペンハーゲンから、北極を通る北ルート。もう一つは、中東のドバイ、カタールを経由して日本に向かう。この南ルートの一部は、オランダのアムステルダム、ドイツのフランクフルトまでトラック輸送されてから、空輸されるものもある。水揚げされたサーモンは、72時間以内に日本に到着する。

ノルウェーの大自然で育てられるノルウェーサーモン

 ノルウェーは1970年代よりサーモンの養殖を始めて、世界100カ国以上に輸出している。日本へは80年代から輸出していて、90%がノルウェーサーモン、10%がフィヨルドトラウト。

 両者は似ているが、ノルウェーサーモンは脂がのって甘みが強く、フィヨルドトラウトは赤身が多い。どちらも寄生虫のない、厳格に管理された飼料しか与えられない養殖魚だ。

ノルウェーサーモンの養殖場風景
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