ドーミーインはビジネスホテルと呼べるのか 業界人を悩ます「くくり」問題瀧澤信秋「ホテルの深層」(4/5 ページ)

» 2022年06月08日 06時30分 公開
[瀧澤信秋ITmedia]

激増した宿泊特化型タイプ

 ビジネスホテルが付加価値を高めた背景には、増加→競合→差別化という点からもかつてのインバウンド活況も大きな理由のひとつだ。急激な訪日外国人旅行者の増加は宿泊施設不足を露呈させた。一般的なホテルや旅館だけでは足りず、ラブホテルの一般ユースへの転用も増えていった。

 また、カプセルホテル、ホステルのような簡易宿所、法的な交通整理も進んだ「民泊」という業態も激増した。簡易宿所や民泊は開業までの準備期間や低廉なイニシャルコストという点でも、スピーディーに宿泊施設不足を補完した。その証左として、コロナ禍で真っ先に淘汰されたのが簡易宿所、民泊だった。

ドーミーイン (画像提供:ゲッティイメージズ)

 一般のホテルはどうだろうか。インバウンドが激増しているからホテルを造るとはいっても、3年や4年もかかっていては訪日外国人旅行者の増加スピードについていけない。とはいえ、ホテル種別でもより開業ヘのハードルが低いのは宿泊特化型なのは間違いない。必要とされるスタッフの数も限定的だ。そうした点でもビジネスホテルのボリュームゾーンは相当なものになった。

 コロナ禍前の2020年1月の客室数データを見てみよう。カテゴリー別では、ビジネスホテル75万3961室(8416施設)、シティホテル19万1549室(1179施設)、リゾートホテル12万259室(1576施設)と、ホテルカテゴリーではビジネスホテルは圧巻のボリュームといえる(ホテルバンク 日本全国ホテル展開状況)。

ビジネスホテルと呼ばれる違和感

 ところで、データでは「ビジネスホテル」という表記がなされているが、これはフルサービスではない前述した宿泊特化型ホテルという意であろう。そのボリュームゾーンを鑑みるに、競合が起きると差別化が進むのは定石であることをあらためて示唆するが、他方、宿泊と朝食の提供にとどまる宿泊特化型の場合は、勝負できるポイントは限られる。

 ゆえに、朝食はどこまでも豪華になり、無料サービスの幅は広がり、カッコいい客室を誕生させ、ホテルそのものもデラックス化、特異なコンセプトで勝負する。とはいえ宿泊特化型だけにウエディングも宴会もない。

 最近、こうしたハイセンスな付加価値タイプの宿泊特化型ホテル関係者から、「ビジネスホテルという呼称に違和感がある」との声が出ている。

 既述のようにビジネスホテル=宿泊特化型というくくりで長らく呼称されてきた。メディアでも“ビジネスホテル特集”といった企画も多い。仮に“宿泊特化型ホテル特集”では、一般の方々にはキャッチーでなく引きが弱い。それだけ定着してきた呼称であるといえよう。ビジネスホテルという言葉の持つイメージ・ワードを友人、知人に聞いてみたところ、簡素、チープ、利便性、機能性……といった答えが返ってきた。

 反面、決して簡素でチープではない宿泊特化型タイプのホテルは確かに増加している。とはいえ、代替の呼称は定着しておらず、宿泊特化型タイプのホテル=ビジネスホテルといわれる傾向に大きな変化は見られない。

 事業者の抱く“ビジネスホテルといわれる違和感”――。高い付加価値の提供で人気を博したドーミーインはどうであろうか?

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