マーケティング・シンカ論

稼働率100%の部屋はなぜ生まれた? アパホテルの「宿泊客を飽きさせない工夫」37年連続黒字の秘けつ(2/3 ページ)

» 2022年06月27日 08時00分 公開
[堀井塚高ITmedia]

稼働率100%の部屋

 22年4月に開業したアパホテル〈なんば心斎橋東〉で採用した客室「SSコネクト(シングル・シングルコネクト)」も時代のニーズをくんだアイデアだ。これは隣り合うシングルルーム同士を必要に応じて行き来できるようにし、ツインルームのように使えるようにしたもの。テレビやシャワー、トイレも2つずつ使え、空調も分けられるなど、ツインルームより使い勝手がいい。

SSコネクト。SSコネクトは、アパホテル〈なんば心斎橋東〉にある199室あるシングルルームのうち34室(17組)が対応している(画像提供:アパグループ)

 友人同士などで一緒に旅行はしてもプライベートは確保したい場合や、受験シーズンの親子利用などに期待しているという。「SSコネクトは、テレビで紹介されていた、最近は受験に親が付き添うという話に着想を得た」(元谷社長)

 近年、日帰りできない場所にある大学などを受験する際に、受験会場に近いホテルに親子で宿泊するケースが増えている。しかし、ホテルのチェックイン・チェックアウトの手続きや食事の支度などは親がやってくれるので、子供は最後の追い込みに集中できる……とはならず、親が同じ部屋にいると気が散ってしまうのだという。元谷社長はそこに目を付けた。

 また元谷社長は、家族の在り方の変化に伴いツインルームの使い勝手が悪くなったことにも言及した。「近年は一人暮らしや子供を持たない夫婦など世帯の在り方も多様化しており、ツインルームは週末に比べると平日の稼働率が低い。平日はツインルームもシングルルームの料金で提供していたが、それでは機会損失になる。SSコネクトならシングルルームとしてもツインルームとしても利用してもらえるので稼働率が安定する」(元谷社長)と、SSコネクトを採用した理由を説明する。

 SSコネクトの効果もあって、アパホテル〈なんば心斎橋東〉のゴールデンウイーク中の稼働率は複数の日程で100%に達した。

SSコネクトの俯瞰イメージ図(画像提供:アパグループ)

 元谷社長によれば、顧客満足度向上には宿泊客のニーズを常にキャッチアップすることに加え、飽きさせない工夫も不可欠だという。アパホテル〈なんば心斎橋東〉では、チェックイン手続きを大幅に簡素化できる「1秒チェックイン機」を導入したほか、チェックイン手続きを非接触でサポートする「遠隔フロントシステム」や、ルームカードキーを投函するだけでチェックアウト手続きができる「エクスプレスチェックアウトポスト」なども設置した。

 「新ホテルの開業に当たっては、必ず1つはイノベーションを取り入れている。アパホテルというブランドには、泊まるたびに新しい発見がある。それが顧客満足度向上につながる」と元谷社長は言う。

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