マーケティング・シンカ論

稼働率100%の部屋はなぜ生まれた? アパホテルの「宿泊客を飽きさせない工夫」37年連続黒字の秘けつ(3/3 ページ)

» 2022年06月27日 08時00分 公開
[堀井塚高ITmedia]
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月額約9万円のサブスク、収益は1億6500万円に

 伝統や格式にとらわれないアパホテルの姿勢は、コロナ禍のサービス展開からも見て取れる。1回目の緊急事態宣言が発出された20年4月、全国のアパホテルの平均客室稼働率は30%にまで落ち込んだ。そこでアパホテルでは、翌5月10日〜6月30日の期間限定で、1室1泊2500円の「新型コロナウイルスに負けるなキャンペーン」を全店で展開。空室にしておくよりは、低料金でも稼働させたほうがいいのは言うまでもないものの、伝統や格式を重んじるホテルでは、こうした思い切った対策はとれないだろう。このキャンペーンで20年6月の稼働率は一気に72%まで上がったとのことだ。

 また21年5月からは、月額9万9000円で全国150以上のアパホテルが泊まり放題になる「全国サブスクプラン」をスタート。当初は7月末で受け付け終了の予定だったが好評を受けて9月末まで延長した。最終的には1672件の申し込みがあり、収益は1億6500万円に上ったという。

 「一泊3300円という非常に安い料金だが、ホテル側からすれば売り上げは増える。あるニーズを根こそぎ取りたいという考えで敢行した。サブスクの受け付けは終了したが、稼働率が下がったら再募集も検討している」(元谷社長)

全国サブスクプランも好評だった(画像:アパホテル公式Webサイトより)

アパホテルは業界の砕氷船

 元谷社長が宿泊客のニーズに敏感なのは、現アパグループ会長であり、父親でもある元谷外志雄氏の教えによるものだ。

 「父に言われた『情報感度が低い人間はビジネス感度も低い』という言葉が今も心に残っている。私自身は雑学が好きなので、情報の網を広く浅く張っている」と元谷社長は明かす。また元谷会長からは「ほかの業界の成功事例をホテル業界に置き換えてみろ。それが日本初、業界初かという観点で企画を立てろと。それが私には響いた」という。

 そのアドバイスが形になったのは22年5月のこと。宿泊実績に応じて会員ステータスがアップする会員制度を開始した。年間20泊以上宿泊する利用者には「APA Stayers Club Card(アパステイヤーズクラブカード)」のインビテーションを送付。これは、JALやANAのマイレージクラブのホテル版だ。元谷社長は「ホテル業界でリピーターを増やす方法の1つとして参考にした。他社がやっていない取り組みだと思う」と胸を張る。

アパグループ会長であり、父親でもある元谷外志雄氏の教えが今も生きていると話す元谷社長

 リピート率の高さもアパホテルの強みの1つだ。アパホテルに初めて宿泊したお客の約75%がおおむね1年以内に再度宿泊しているという。コロナ禍はホテル業界にとって大きな痛手となった。リピート客の存在はアパホテルにとって大きかっただろう。元谷社長は、コロナ禍が終息しても、外国人観光客が本格的に戻るのは24年以降とみている。「25年には大阪・関西万博(日本国際博覧会)もある。これは東京五輪よりも需要としては大きくなる」(元谷社長)

 常に他社がやらないことに目を向け、進化を続けていくアパホテル。そこから生まれる新しい体験が宿泊客の満足度を高め、また宿泊しようという気持ちにさせている。

 「アパホテルは業界の砕氷船。アパホテルが氷を砕いて進むと『アパホテルが新しいホテルでこんなことをやっている』と、他のホテルが付いてくる。真似されるが、先行者メリットが取れるから、うちはそれで構わない」と元谷社長は自信を見せた。

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