線路内への転落を防ぐため、駅のプラットフォームに設置が進むホームドアやホーム柵。その一角を、駅係員の遊び心で彩った手作りデコレーションが、密かな話題となっている。西武鉄道の所沢駅(埼玉県所沢市)。利用客に季節感を提供したいと手作りの装飾を始め、今ではちょっとした撮影スポットになっている。専門家によると、こうした駅係員など現場レベルによるCD(カスタマーディライト・顧客感動)向上に向けたユニークな取り組みが近年、増えてきているという。
新学期のシーズンに合わせて教室の中を模したデコレーション。段ボールなど駅内にある材料を使って駅係員が手作りしている(提供:西武鉄道)
所沢駅1番ホームの上り(西武新宿方面)側。ホーム柵の一角に棚をしつらえた箇所がある。中には箱庭のようなミニチュアを設置。クリスマスや節分をイメージした装飾や、「卒業おめでとう」「入学おめでとう」といったメッセージ、沿線で開催されるイベントに関連した装飾などを、季節に合わせて展示している。
2020年10月に所沢駅1番ホームに設置されたホームドア。当時、同鉄道の埼玉県内の駅では初めての設置だった(西武鉄道のニュースリリースより)
「コロナ禍で行動が制限され、社会全体の明るさが失われつつあるように感じていました。地域とともに歩む企業として、駅構内を活用してお客さまとつながり、コロナ禍でも季節を感じてほっこりしてもらいたいとの思いから始めました」と西武鉄道広報部の森川颯太さんは話す。
駅係員たちの心境にも変化
装飾の手作りを始めたのは2021年10月。最初はハロウィンの装飾だった。段ボールや折り紙など、主に駅にある材料を活用して制作。駅係員2〜3人で業務の合間に作成している。テーマの構想から完成までには3日から1週間程度かかる。これまでに主に11作品を作ってきた。
2021年10月に初めて展示したハロウィンをテーマにしたデコレーション(提供:西武鉄道)
「装飾したホーム柵の前で写真を撮っている方や、子どもたちが中を一生懸命のぞいているのを見かけると、制作冥利に尽きます」と森川さんは話す。
ホーム柵の装飾を始めてから、駅係員の心境にも変化が生まれたという。これまで受け身の姿勢だった駅係員が、「こんなことはできますか?」と積極的に発案する場面が増え、職場全体が活性化されてきたという。
西武鉄道の6000系電車のデビュー30周年を祝うデコレーション(提供:西武鉄道)
SNSを中心に話題が広まっていることに対し、「率直にうれしいです。次回作に力が入るとともに、普段の接客業務にも活力が沸きます」と森川さんは話す。
関連記事
小田急、絵がうますぎる駅員さん 駅構内のチョークアートに反響 なぜ始めた?
小田急電鉄の相模大野駅(相模原市南区)に展示されているチョークアートに、多くの人が足を止めて見入っている。四季の風景や、定期運行を終えた特急ロマンスカーなど、精巧な筆致に反響が広がっている。駅係員たちのアイデアから生まれたアート展示は、どんな経緯から始まったのか。
忘れ物にメッセージを添えて返送 JR岡山駅の“神対応”に共感広がる
乗客の忘れ物にメッセージカードを添えて送り返すJR岡山駅の取り組みが「心あたたまる」とTwitterで反響を呼んでいる。乗車券と同じデザインのカードには、岡山弁で「また、おいでぇ」と赤いスタンプが押印。受け取った大学院生の投稿から共感が広まった今回の取り組みは、一体どのような経緯から始まったのだろうか。
新幹線から富士山見やすく――JR東海、車内スペースを改良 狙いは?
JR東海は東海道新幹線の最新車両「N700S」を2023〜26年度にかけて、追加で19編成投入すると発表した。追加投入にあたり、車内スペースを一部改良。多目的室の窓の高さを変更し、車いす利用者がより景色を楽しめるようにする。改良の狙いを担当者に聞いた。
刺身に電気を流して「アニサキス」撲滅 苦節30年、社長の執念が実った開発秘話
魚介類にひそむ寄生虫「アニサキス」による食中毒被害が増えている。この食中毒を防ぐため、創業以来30年以上に渡り、アニサキスと戦い続けてきた水産加工会社がある。昨年6月、切り身に電気を瞬間的に流してアニサキスを殺虫する画期的な装置を開発した。開発秘話を社長に聞いた。
使いやすさより可愛さ! 台湾で立体型の交通系ICカードが大ヒットするワケ
改札機にかざすだけで列車に乗れ、店舗での買い物にも使える交通系ICカード。カードだから当然、フラットな形をしているが、お隣の台湾では少し事情が違う。フラットではなく、キャラクターなどをあしらった立体型のカードが主流だ。日本でいま話題のヤクルトや、森永のミルクキャラメルの箱を模したものなど、企業とコラボしたユニークなアイテムがそろう。いったい、なぜ作ったのか。そこには、日本企業にも参考になる、常識を覆すものづくりのアイデアと、確たる販売戦略があった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.