マーケティング・シンカ論

「買えないけど好き」 メルセデス・ベンツのファン化戦略はなぜ成功したのか輸入車の新規登録台数は7年連続トップ(1/2 ページ)

» 2022年07月08日 08時30分 公開
[熊谷紗希ITmedia]

 日本自動車輸入組合(JAIA)は2022年4月、21年度の外国メーカー車の輸入車新規登録台数を発表した。新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足、サプライチェーンの機能不全などにより減産が続く中で、「メルセデス・ベンツ」は7年連続で首位を獲得している。

 その裏には顧客満足度を高める一貫した戦略があった。「情報発信拠点」「デジタル」「販売店」の3軸から紐解いていきたい。

メルセデス・ベンツ=高級車というイメージ

 メルセデス・ベンツに対し、「高級車」「憧れ」などのイメージを持つ人は少なくないだろう。少し前まではイメージ通りだったが、今は違う要素も取り込んでいる。中型車〜大型車、高級輸入車のラインアップにコンパクトカーを加えたのだ。

 そうは言っても、フラっと販売店に入るにはまだ少し勇気がいる。そこで同社は11年にブランドの情報発信拠点「Mercedes me(以下、メルセデス ミー)」の前身となる「メルセデス・ベンツ コネクション」をオープンした。現在は東京・六本木など全国4カ所で展開する。

情報発信拠点「Mercedes me Tokyo(六本木)」内観(画像:メルセデス・ベンツ提供)

 車やコレクショングッズを展示し、ブランドの世界観を体験できる場所としての機能を持たせた。加えて、カフェやレストランを併設し、ビジネスパーソンや近隣住民の利用を促す。

 自社の商品を展示し、カフェを併設するだけでは他社のショールームと代り映えしない。同社が目玉として置いているのが、メルセデス ミー 東京(六本木)と大阪でのみ提供している試乗体験だ。時期によって変動はあるものの、コンパクトカーから最新車種まで選び放題、乗り放題。東京(六本木)での1日の平均試乗数は20〜30件に上る。気になるけど、販売店はハードルが高いと感じている顧客が来店し、試乗するケースが多いという。

 同社のマーケティング/O2O推進部のゼネラルマネージャー長谷川孝平氏は「車を買い替えるタイミングでメルセデス・ベンツを選択肢に入れてもらうことが重要です。より多くのお客さまにブランドに親しみを持ってもらうための取り組みを実施しています」と話す。

マーケティング/O2O推進部のゼネラルマネージャー長谷川孝平氏

 その言葉通り、メルセデス・ベンツとの接触機会が多くないであろう消費者にもブランドを知ってもらう努力を怠らない。21年3月には講談社の人気コミック『進撃の巨人』とのコラボを実施。同作品の心に響いた感動セリフの中から、厳選したものを中心にデザインし、ボディにラッピングしたメルセデス・ベンツ「GLA」を展示した。22年4月には同社がオフィシャルスポンサーを務めるブレイクダンスチームとのコラボイベントを開催。ダンスバトルイベントの実施や映えるフォトスポットの設置など、幅広い客層へのブランド認知を強化している。

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