マーケティング・シンカ論

「買えないけど好き」 メルセデス・ベンツのファン化戦略はなぜ成功したのか輸入車の新規登録台数は7年連続トップ(2/2 ページ)

» 2022年07月08日 08時30分 公開
[熊谷紗希ITmedia]
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オンラインでの顧客情報の取りすぎ問題

 同社は数年前からオンラインコミュニケーションにも力を入れている。スマートフォンの普及に伴い、カスタマージャーニーの入り口が販売店やイベントからスマホにシフトした。それにより、オンラインでのコミュニケーション設計の見直しが必要となったのだ。

 食べ物や衣料品、本などの価格帯がそこまで高くないものであれば、スマホ上での購入ハードルも低いが、200万円以上する商品をスマホで「ポチる」ことはまずないだろう。購入につなげるためには、最終的に販売店に送客する必要がある。同社では来店予約などのためにオンラインで顧客情報を入力するフォームを用意。名前、電話番号、住所、現在乗っている車、車種名、車検が切れるタイミング、来店目的などの入力項目を設けていた。

 「より多くの顧客情報を事前に取得しておいた方が、販売店に来店した際により良い対応ができると考えていましたが、実際はそんなことありませんでした」(長谷川氏)と当時を振り返る。

 販売店の効率化や商談の成約率の向上を目指していたが、煩雑な情報入力に嫌気がさした顧客がオンラインページから離脱するようになってしまったのだ。そこから1、2クリックで完結するような仕様に変更した。データを取得しやすいのはデジタルの利点だが、煩雑さは顧客の離脱を招く。そこのバランス感覚が求められることを実感したという。

遊園地の代わりにメルセデス・ベンツのショールームに

 最後に、同社が運営する新しい販売店について紹介する。同社は現在、拠点CI(コーポレート アイデンティティ)である 「MAR2020(エムエーアール トゥエンティトゥエンティ)」というコンセプトに基づく販売店を20店舗展開する。長谷川氏は「販売店の目的化」を狙うと意気込みを見せる。

「MAR2020」というコンセプトに基づく販売店を展開(メルセデス・ベンツ提供)

 「例えば、遊園地に行く予定だったけど雨が降ってしまい行けなくなった。そんな時に新しいメルセデス・ベンツのショールームに行くというように目的地になれればと思っています」(長谷川氏)

 「車を購入する場所」と認識されてしまうと来店ハードルが上がるため、接客にも気を配る。セールススタッフが出迎えるのではなく、車の機能などに詳しい「プロダクトエキスパート」と呼ばれるスタッフが対応。ブランドの魅力や車の特徴を説明することで、お客の理解促進につなげる。実際に興味を持ってもらえたらセールススタッフにバトンタッチするという流れだ。

 若年層の車離れや高齢化による免許返納など、業界にはさまざまな課題が横たわっている。制約の中でどうすればブランドのファンを増やせるか。外国メーカー車の輸入車新規登録台数トップの記録をどこまで伸ばせるか、その手腕が試される。

メルセデス ミーではグッズなども販売する(メルセデス・ベンツ提供)
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