こうした利用客による悪質な言動は「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれ、近年、国会でも法整備に向けた動きが出てきている。
この調査では、鉄道関係者から「過去2回暴力行為を受けているが、上司から受忍義務があるとされ取り合ってもらえず、いずれも泣き寝入りするしかなかった」「悪質クレーム、従業員に対する人格攻撃などは年々増加傾向にあり、その質も悪い方向へと加速しているように思う」などといった声が寄せられた。
今回、鉄道各社はPRポスターにネコを起用し、利用客に不快感を与えずに注意を呼び掛けようと意識した。かわいらしさを損なわないように暴力行為を表現することを心掛け、鉄道係員の制服などは着せず、ネコを前面に押し出して表現した。日本民営鉄道協会の担当者は、「『暴力行為』というマイナスイメージなテーマを扱うため、例年、表現方法には頭を悩ませている」と話す。
実際、こうした啓発の方法を誤ると、悪質な利用客の怒りに油を注いでしまう危険性もはらんでいる。
厚生労働省のハラスメント防止対策室が把握したドラッグストアの事例では、店舗が独自に作成した「カスハラを許さない」と書いたポスターを店内に貼ったところ、利用客が「クレーマー呼ばわりするのか」と返って逆上する事態を招いたことがあるという。
その後、店舗は厚労省が作成した啓発ポスターに貼り替え、「役所から掲示するよう指示されている」と説明するようにすると、利用客から理解を得られるようになったという。いわば、国の“お墨付き”が、カスハラ防止啓発に効力を発揮するというわけだ。
今回、鉄道各社が作成したPRポスターも、警察庁と国土交通省の後援名義の使用許可を得て、ポスターに両省庁の名前を記載した。
一見コミカルに見えるPRポスターには、いかにして利用客の気分を損なわずにメッセージを伝えられるかという鉄道各社の苦悩が滲んでいる。駅員への暴力行為を減らすため、「ネコの手」を借りた鉄道業界の狙いは、果たして奏功するか――。
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