徐々に進みつつあるキャッシュレス化であるが、そもそもなぜ推進しようとしているのだろう。経済産業省の資料「キャッシュレスの現状及び意義」(2020年1月、商務・サービスグループ キャッシュレス推進室)によれば、キャッシュレスの意義・メリットは、(1)消費者の利便性向上、(2)店舗の効率化・売り上げ拡大、(3)データの利活用──としている。
消費者の利便性とは、現金持ち歩き不要、消費履歴の管理が簡単、盗難リスクの軽減などを指す。店舗の効率化とは、店舗における現金管理の手間を軽減すると例示されていた。売り上げ拡大については、インバウンド需要に関して「キャッシュレス対応があればもっとお金を使ったはず」との訪日客のアンケートを基にした事例が示されているが、いわれてみればそうかもしれない。
ただ、キャッシュレス推進の最大の意義は、3番目に書かれている「データの利活用」であることは言うまでもないだろう。はやりのDXには決済データの収集が不可欠であるからだ。
デジタル活用の本質は、人の日常生活のさまざまな行動履歴をデータとして記録していくことによって、行動を事後検証可能な状態にしていくことである。決済データを収集することで、いつ誰がどこで何をいくらで買ったか、ということが記録され、日々蓄積されていく。さらにSNSでの動き、店舗での画像データ、位置情報データなどさまざまな他のデータをIDによって名寄せ、統合することができたなら、その人の生活を丸裸にしてしまうことも可能であろう。
そうなれば、消費者にモノやサービスを提供する側にとって、ビジネスチャンスは飛躍的に拡大する。こうしたインフラが整っていなかったこれまでは、“数打ちゃ当たる”的なマスマーケティングに依存するしかなかったのだが、ビッグデータが蓄積されるようになれば、ロジカルなマーケティングをきめ細かく実施できる。デジタル時代が本格的に到来すれば、マスマーケティング的なアプローチは、ただの闇夜の鉄砲に等しくなるということだ。
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