深刻な人材不足 優れたCXO・社外取締役はどこにいるのか?役員改革が始まった(2/2 ページ)

» 2022年07月15日 07時00分 公開
[柴田彰ITmedia]
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 この流動性の低さの大きな要因には、日本企業における経営フォーマットの独自性があげられます。日本の企業は、自社の独自性を大事にしている節があります。経営者だけでなく一般の従業員からも、「うちの会社は他社とは違うから」という言葉を良く耳にします。独自性が極めて大事な意味を持つものもあります。

 例えば、パーパスやビジョンは企業独自のものであるべきですし、差別化が本質論である戦略もまた、各企業で独自ものでなければなりません。しかし、それらを実現するための意思決定プロセスや組織設計の方法、日々の業務手順までも、各企業で独自のものでなくてはならないのでしょうか?

 世界に目を向けると、欧米のグローバル企業では、経営のフォーマットを標準化しようとする努力が行われています。管理会計の仕組み、組織・権限の設定、ひいては業務プロセスといったところまで、標準化が進められています。あまり注目されることはありませんが、この標準化の度合いの差が、日本企業とグローバル企業の大きな違いになっています。標準化に対する日本企業と欧米企業の違いを生んでいるのは、多様な人材を招き入れて生かそうとする、インクルージョンに対する意識の差だといえます。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 グローバル企業では、否応なく多様化が進んでいます。グローバル企業では国籍、性別関係なしというのは当たり前で、さまざまな業界の出身者を自社に招き、活躍の場を与えようとします。言語、物事の考え方、価値観が異なる人材を社内に迎い入れ、すぐに成果を上げてもらおうとすると、独自性は大きな阻害要因になります。

 独自性が高いと、日本風にいえば、いろいろなご作法を学ぶところから始めなければなりません。しかも、そのご作法が自分の価値基準と合い入れないものであれば、退職してしまうリスクすらあります。多様な人材を生かすために、企業側は受け入れ態勢を整えておかねばならず、標準化はその大きな要素なのです。

 経営の標準化を進めることによって、日本の役員人材市場における自由化が進むはずです。その反面で、一企業の視点に立つと、自社の将来を担うべき人材を、何としてでもつなぎとめておく努力が必要になります。自社の魅力にもっと磨きをかけ、優秀な人材に対する金銭的、非金銭的な処遇を充実させなければ、人材の獲得競争に取り残されてしまいます。よりオープンな環境の中で、自社の魅力度を冷静に見つめ直すことから始めなければなりません。

 日本では、本格的な役員改革は始まったばかりです。監督側の取締役と執行側の執行役員、双方を対象とした改革の取り組みは、しばらく試行錯誤の状況が続いていくでしょう。しかし、日本企業が継続的に成長し続けていくためには、役員改革は不可逆的で避けては通れない課題だと思います。役員の体制や仕組みといった各企業内で変えられるものもありますが、役員を担える人材のプールを拡充させる取り組みは、一社だけの努力では成しえません。役員改革は、日本の産業界をあげての大きな挑戦であり、一大アジェンダなのです。

著者紹介:柴田 彰(しばた・あきら)

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コーン・フェリー・ジャパン株式会社 コンサルティング部門責任者 シニア・クライアント・パートナー

慶應義塾大学文学部卒 PwCコンサルティング(現IBM)、フライシュマンヒラードを経て現職。コーン・フェリー・ジャパンのコンサルティング部門責任者。

近年はジョブ型人事、社員エンゲージメント、経営者サクセッション、役員改革などのテーマを数多く取り扱う。

著書に「エンゲージメント経営」「人材トランスフォーメーション」、共著に「VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件」「職務基準の人事制度」「企業競争力を高めるこれからの人事の方向性」、寄稿に「広報会議」「企業会計」「労働新聞」ほか。

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