クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

日本のクラウンから世界のクラウンに その戦略を解剖する(2)池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/7 ページ)

» 2022年07月19日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

豊田章男社長のクラウンにかける想い

 今回のグローバル化について、豊田章男社長はワールドプレミアのスピーチの中でこう述べている。少し長いが抜粋する。

ワールドプレミアでスピーチする豊田章男社長(トヨタ提供 撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY)

 いつの時代も、クラウンが目指してきたものは、「幸せの量産」だったと思います。

 クラウンは、日本の豊かさ、「ジャパンプライド」の象徴でした。そして、世界に誇る日本の技術と人財を結集したクルマでした。新型クラウンにも、そんな日本の底力が詰まっております。

 だからこそ、このクルマで、私たちはもう一度、世界に挑戦いたします。

 新型クラウンは、約40の国と地域で販売してまいります。シリーズの販売台数は、年間20万台規模を見込んでおります。

 クラウンが、世界中の人々に愛されることで、日本がもう一度、元気を取り戻すことにつながれば、こんなに嬉しいことはありません。

 「日本のクラウン、ここにあり」。それを世界に示したいと思っております。

 最後に、世界のお客様へ、メッセージをお伝えしたいと思います。

 I'm so excited to announce today… that this new Crown family of vehicles will be offered…not just in Japan… but globally…. for the very first time.

 (本日皆様に、このニュースをお届けできることを大変楽しみにしてまいりました。新型クラウンシリーズは、日本だけではなく、初めて、グローバルに販売してまいります。)

 Customers from around the world will now get a chance to drive this historic Japanese nameplate… born out of passion, pride, and progress.

 (日本の情熱、プライド、発展が生み出した歴史あるクルマに、世界中のお客様がお乗りいただけるようになります。)

 A car that could very well be… our crowning achievement!

 (このクルマはきっと、クラウンの「最高傑作」になると思っております!)

 皆様、「日本のクラウン」の新しい未来に、ご期待ください。本日は、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 いかがだろうか? スピーチなので、都合の悪いことは言っていない。「国内専用のままでは生き残れない」という厳しい現状は、流石に正直には吐露(とろ)していないが、おそらくはもう一方で、「『日本のクラウン、ここにあり』。それを世界に示したいと思っております」という部分もまた、本音であると思う。

 そうでなければ、一度に4台もまとめて発表したりしない。負け戦と決まった撤退戦に巨額の投資をする経営者はいない。そういう意味で「攻撃こそ最大の防御」を地でいく攻めの戦略をトヨタは遂行しようとしている。もちろんそれがうまくいく保証があるわけではない。しかしそもそも世の中に絶対うまくいく保証のあるビジネスなどは存在しないのだから、やってみる体力があるならやってみるしかない。

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