「社会人お笑いライブ」の舞台裏 うまくいかない人の“受け皿”になれるか週末に「へえ」な話(3/4 ページ)

» 2022年07月23日 08時02分 公開
[土肥義則ITmedia]

赤字が膨らむ

 「ライブ=悪」のようなイメージが広がったことで、人前でお笑いをすることが難しくなった。感染症の広がりによって、予定していたライブはすべて中止。感染者が少し落ち着いたので、「さあ、そろそろ再開できるかな」と思って、準備を始めると、また増え始めて。こうしたことを何度も繰り返していくうちに、赤字がどんどん膨らんでいく。

 このまま続けるのは、難しいのかもしれない――。事業の継続性に黄色信号が点灯し始めたタイミングで、クラウドファンディングで資金を募った。21年の「社会人漫才王」を開催するにあたって、目標金額は50万円に設定。自分たちがやっていることに対して、どのくらいの人が賛同してくれるのか。恐る恐る始めたところ、118万円(支援者259人)の資金が集まった。この金額は、運営側として「予想以上」だった。

 集まった資金を元手に「社会人漫才王」を開催したところ、120人ほどのお客が集まった。会場から沸き起こる笑い声を聞くたびに、奥山さんは「続ける価値があるのではないか。いや、続けなければいけない」と思ったという。

 このコメントを聞くと、「お客のために……」とも受け取れるが、それだけではない。話を聞いていると、お客のためというよりも、演者のためという想いが強く感じられたのだ。どういうことか。お笑いライブを始めた理由を思い出していただきたい。「就職」か「お笑い」かという選択に悩んでいる人たちに向けて、受け皿となるような“場”を提供するために始めた。

 進路に悩んでいた人たち、受け皿となる場に参加している人たち、あきらめずにお笑いを続ける人たちは、どんな人が多いのだろうか。「誤解を生む表現かもしれませんが、社会人としてうまく生きていけない人が多いんですよね」(奥山さん)。「うまく生きていけない」とは、どういう意味なのか。会社での仕事がうまくいかない、上司や同僚とのコミュニケーションがうまくとれない、取引先との関係性がうまくいかない、などだそうだ。

 仕事をしているときは大変なことばかりだが、ステージに立つとスポットライトを浴びる。ネタがウケると、客席から笑い声が聞こえてくる。「うまく生きていけない演者さんにとって、唯一輝ける場所がお笑いライブであれば、やはり続けていかなければいけないと思っているんですよね」(奥山さん)

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