ういろの価値向上によって、地元の人たちも再び目を向けてくれると信じている。そのために不可欠なのは、何よりも「また食べたい」と思ってもらうことだ。
村山社長は、「もっとおいしくすることに尽きます。食べ物なので、おいしくなければ意味がない。食べた時に笑っていただける、楽しんでいただけるお菓子を作らないと」と強調する。
英里さんも続く。
「おいしいという一言が最初に出てくるような商品にしなければいけません。ウイロバーも当初は、かわいい、面白い、変わったねといった声をいただきました。でも、おいしいねと言われないと次につながらないですよ。かわいいと思って買っても、食べておいしくなければ、お客さんは2度と買わないし、人にも勧めません」
おいしさに磨きをかけるのが最重要課題だ。そのためには、時として伝統を変えることになるかもしれない。老舗の歴史が邪魔をしないのか。
「受け継いでいるものはゼロではないですが、絶対にこうしなきゃいけないというものは、正直うちの会社にはありません。七十数年の歴史を振り返ってどうだといっても、昔話にしかなりません。守るべきもの、攻めるべきものを自分たちなりに考えて、将来に向けて一生懸命やるだけです」(村山社長)
ただ一方で、ういろという名古屋の食文化は残していかねばという思いは強い。
「一菓子屋ですけど、名古屋の食文化を担っている自覚はあります。それはきちんとした形で、責任持ってつないでいきたい」と村山社長は真剣なまなざしで語る。
そして、名古屋に来てくれた人たちが「ここには大須ういろの商品がある」といわれるような存在を目指す。他方、名古屋の人たちには、この地域に住んでいることを誇りに思える菓子を生み出していきたいという。
和菓子屋としての原点回帰。それが今の大須ういろに必要なことなのかもしれない。
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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