CxO Insights

「年季の入った経理システム、どうすれば?」 CFO歴任者が教える、ばかにできないExcel活用術経営を動かすファイナンス(2/2 ページ)

» 2022年08月10日 12時30分 公開
[鷲巣大輔ITmedia]
前のページへ 1|2       

分析力を高める「Exploratory」

 大量のデータを高速に処理するという意味では、Power Query・Power Pivotは標準的装備で広く使われているExcel機能を展開しているという手軽さもあり、簡単に効果を実感できるツールです。

 「効率性」の軸とは別に「効果性」の観点、つまり過去データから法則性を探り、各種の統計手法を活用して、より信頼性の高い分析を行うという目的のために、モダンExcel以外の別のアプリケーションを活用する方法にも、検討の価値があります。有料ではありますが、Excelのアドインとして各種統計解析機能が使える「Excel統計」というソフトウェアもおすすめです。また、筆者が個人的にフル活用して効果を発揮しているのは「Exploratory」というアプリケーションです。

 Exploratoryは統計に特化したプログラム言語であるR(アール)のユーザーインターフェースで、プログラムの知識を必要とせずにRを用いた統計解析を簡単に実行可能なアプリケーションです。有料なので、一度その投資対効果は皆さんなりに判断していただきたいですが、筆者はこのExploratoryを導入してから分析力が格段に上昇したことを実感しています。

 筆者が実感するExploratoryの利点は次のようなものです。

  • 大量のデータを取り込むだけで、簡単なまとめや、ある係数との相関関係などが簡単に可視化される
  • 分析ツールが豊富で、回帰分析、統計的検定、機械学習によるアルゴリズム解析、クラスタリング、時系列予測など、Excelの機能をはるかにしのぐ分析機能が実装されている
  • 数学的な統計解析に加え、機械学習も実装されており、人知を超えたアルゴリズム解析が可能である

 例えば、顧客データベースを基に、再購買をする顧客の購買リストと、再購買しなかった顧客の購買リストを比較し、どのような差があるのか、再購買を決定づける因子を回帰分析的に探す。もしくは機械学習で再購買客の購買頻度や購買インターバル期間に影響を与える因子を探す、といったことが可能です。

 また予算策定を行う際には、現状の延長線上を推移すればどの程度の売り上げになるか「As Is」を見積もります。この際に使いたいのが、過去のデータをExploratoryに投入し、時系列解析のProphetというライブラリを駆使することで、将来の売上見込みを機械学習によるアルゴリズムで予測する、といった機能です。

 いうまでもなく、統計解析を用いた分析は、その主張を支える根拠の精度は向上しますが、それを意思決定権者に伝えるときには注意が必要です。自分自身が自信をもって答えを出すためにこうした分析ツールを使うことと、相手に分かりやすく伝え、共感してもらい、アクションをとってもらうためのコミュニケーションは分けて考える必要はありそうです。確かにこうした注意点はあるのですが、自分自身の主張に自信と確証を持たせるためには大変有用なツールといえるでしょう。

ツールは自分の力を最大限発揮するための武器

 最近はFP&Aの業務のために活用できるデジタルツールが増えてきました。筆者自身、こうしたデジタルツールには興味が強く、可能な限り試していますが、一方でツールを軽視する風潮もあるなとも感じます。

 こうしたツール批判をする人は、より概念的なスキル(誰も思い付かないようなコンセプトを提示する能力)の方が、技術的なスキルよりも上位概念だと思っている風潮もあるかもしれません。特にExcelは、誰でも使える普遍的なツールであることもあって、割と「ばかにされやすい」スキルだと感じることも多いです。

 一人一人の能力なんてたかが知れています。どんなに「優秀」といわれる人であっても、凡人との差がそれほど大きいとは思いません。ただ近年においては、凡人であってもその能力の限界を補填してくれる、あるいは人知を超えた能力を可能とするツールが多く存在します。

 今回ご紹介したPower Query・Power PivotといったモダンExcelや、ExploratoryというRのユーザーインターフェースは、実はそれを手っ取り早く可能にしてくれるツールです。そういったツールを自由自在に取り扱うことで、自分の限界を超えられる一方、ツールを使いこなすための努力は、進化が加速する現代だからこそ、必要になってきているといえるでしょう。

 しかしながら本稿の最後に、ツールはツールにすぎないという指摘もあえてお伝えしておきたいと思います。FP&Aはあくまでも意思決定権者の「問い」に対して明確な見解を述べるのが役割だと繰り返し述べてきましたが、その「問い」自体を磨き上げることに関しても、注意力を磨いていかなければいけないと、筆者は切に思います。

著者プロフィール

鷲巣大輔

グロービス経営大学院准教授/株式会社FP&A研究所代表取締役

一橋大学商学部卒業。米系消費財メーカーに入社後、コーポレートファイナンスからキャリアをスタートする。以後一貫してFP&A(Financial Planning & Analysis)をベースとした経営戦略策定、事業部コントロールに従事。スタートアップ企業CFO、米系消費財企業のアジア・パシフィック地区のCFOを務めた後、PEファンド投資先企業のFP&A、経営企画を担当。2021年にFP&Aの力で組織を強くすることをミッションに株式会社FP&A研究所を創立し、代表取締役を務める。2007年からグロービス経営大学院にて、コーポレートファイナンスの講義を担当する。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.