副業収入300万円未満は雑所得に?……国税庁の狙いは“サラリーマン副業”潰しか 古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)

» 2022年08月12日 07時01分 公開
[古田拓也ITmedia]
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真の狙いは「サラリーマンの赤字副業節税」根絶?

 今回の規制案についても、「サラリーマン副業節税」をSNSなどで指南するインフルエンサーが現れていたのも要因の1つであると考えられる。具体的には、「サラリーマンが副業で経費を多く出費することで、わざと赤字を作り、給与所得と損益通算すれば実質的な所得減税となる」というようなやり方が、足元で喧伝されている。

 もちろん、大手を振ってわざと赤字を作っても、経費として否認されるという仕組みはある。しかし、いくら国税庁といっても、探偵やお天道様というわけではないし、人的リソースも無限ではない。

 事業所得と事業主個人の生活費の境界線は実はかなり曖昧で、事業に関連して支出したと整理された経費が、本来は事業主の生活費であったかどうかを完璧に判別するのは難しいのである。

 国税庁の提示したサラリーマン副業の所得区分をもう少し詳細に見ると、その中でもやはり“モラルハザード的”な事業所得を、雑所得に分類していきたいという狙いも垣間見える。

 国税庁によれば、今回のサラリーマン副業規制案の正式な要件は次のとおりである。

事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上 事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得で なく、かつ、その所得に係る収入金額が 300 万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします。

「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募手続の実施について

 つまり、副業ではなくフリーランサーや個人事業主の収入で生計を立てている場合は、これが「主たる所得」であることから、月あたり25万円の水準を下回っても「雑所得」に分類されないため、増税とはならない。

 また副業であったとしても、例えば「開業したてで先行投資や顧客開拓のコストがかさみ、売り上げがほとんどたてられなかった」などといった正当な「反証」があれば、年間300万円の水準を下回っても事業所得として認められそうだ。

 このように考えると、今回の規制案は「サラリーマン副業」を一般的に潰すものではなく、「真っ当でないサラリーマン副業」を潰すということが主眼に置かれているとも考えられる。

 筆者の実体験としても、プライベートな食事で「領収書いる?」というワードがさまざまな場面で飛び出していたことを思い出す。これを翻訳すると、「あなたは個人事業主をやっているので、今回の食事を取引先との食事ということにして経費で落としませんか?」という意味になる。

 他にも実例はたくさんあるが、年に必ず数回以上は、個人的な支出を経費にして当然と考えている人の存在を目の当たりにしてきた。そのような個人事業に関する制度運用の“ゆるさ”が、赤字副業や免税事業者の消費税請求、ひいては持続化給付金詐欺などにも波及していたのではないかと思いをはせる部分もある。

 ひとつ言えるのは、「真っ当」に事業に向き合っている人であれば、これらの規制が導入されたとしても何ら影響を受けることはないはずであるということだ。

【訂正:8月14日午前7時00分 収入と所得について記載が不正確な部分がありました。修正し、訂正いたします。】

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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