こういう話をすると、流通やテクノロジーの専門家は「それは今のセルフレジの技術がまだ中途半端だからだ」という見方を示すことだろう。イオンのレジゴーや、アマゾン無人決済スーパー「Amazon フレッシュ」のようにもっと簡単に無人決済できるシステムが普及すれば、「セルフレジ係」なんて人さえもいらなくなって、業務の負担を減らすどころか、スーパーで働く人の数を大幅に削減できる、と。
しかし、筆者はいくら無人決済技術が進歩したところで、この国においてはそこまでバラ色の未来は待っていないと思っている。
実は日本のスーパーでセルフレジが23.5%しか設置されていないのは、現場で働く人たちがゲンナリしていることに加えて、もうひとつ「お得意様」からもあまり評判がよくないことが大きい。
それは「1人暮らしの高齢者」だ。
ご存じのように、日本は世界最速のペースで高齢化が進んでいる「老人大国」だ。総務省の『令和2年国勢調査』によると、高齢者率は28.7%で、この割合は世界の中でもっとも高い。65歳以上の高齢者は3533万5805人、そのうち「1人暮らしの高齢者」は671万6806世帯で、総世帯数に占める割合は12.03%となっている。この割合は今後さらに上がっていく見込みだ。
このように「世界一の高齢化社会」になることが決定している国で、セルフレジを「主流」にしていくのはかなり難しいのではないかと思っている。
なんてことをいうと、「老人だからテクノロジーに弱いというのは差別だ! オレのじいちゃんはTikTokやっているぞ」とか「今の高齢者はスマホを使いこなしている人も多いので、教える環境さえ整えれば、セルフレジが常識として定着するはずだ」というお叱りを受けそうだが、セルフレジを主流とするのが難しいと言ったのは、そういう方面の理由からではない。
「1人暮らしの高齢者」にとって、スーパーのレジはただ金を払って商品を購入できればいいというものではない。孤独な日常の中で、誰かと「会話」ができる非常に貴重な場となっている現実があるのだ。
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