「セルフレジ」を支持している人は多いのに、なぜスーパーでなかなか普及しないのかスピン経済の歩き方(6/7 ページ)

» 2022年08月30日 10時18分 公開
[窪田順生ITmedia]

足元にある課題

 先ほど申し上げたように、これからの日本は「2025年問題」なんて危機が指摘されていることからも分かるように、「1人暮らしの高齢者」が爆発的に増えて、そこかしこに「今日1日、誰ともしゃべらなかったな」という孤独の老人があふれかえるはずだ。

 「高齢者うつ」という問題も深刻化する。孤独で体を壊す高齢者が増えれば医療費も雪だるま式で跳ね上がる。国や行政が「地域コミニティーに参加しましょう」「人とのつながりを持ちましょう」と呼びかけても、孤独な老人はそれができないから孤独なのだ。そうなると、どんなに孤独な人でも生きていくには必ず利用するスーパーでのコミュニケーションが非常に重要になってくる。

 つまり、孤独な老人があふれかえるこれからの日本のスーパーで必要なのは、誰ともしゃべることなくスピーディーに会計できるセルフレジなどではなく、「今日はいい天気ですね」なんて世間話を店員と交わしながら、常連客としてつながりを持てるような「おしゃべり専用レジ」なのだ。

 事実、日本のスーパーの中にも先見性のあるところは、そのような未来を見据えた動きをしている。例えば、岩手県滝沢市にあるスーパー「マイヤ滝沢店」では、高齢者向けの「スローレジ」を設置して、高齢者がゆっくりと買い物ができるような工夫をしている。

 ただ、「セルフレジ」に比べるとこちらはまったく市民権を得ていない。冷静に考えると、これはかなり不思議なことではないか。

 日本は世界一のスピードで高齢化が進んでいることで、高齢者向けのビジネスでは他の先進国から「トップリーダー」として注目されている。本来は、日本の大手スーパーなどが先に「おしゃべり専用レジ」を設置して、それを見た海外が「おお、さすが高齢化社会の日本だ!」と真似されるのが自然の流れだ。

 しかし、現実は逆だ。オランダやフランスの大手チェーンがいち早く、スーパーにおける高齢者の孤独対策に着目して、それを推進しているのに、高齢化待ったなしの日本の大手チェーンは、自分たちの足元にある課題から目を背けて、「無人決済」を進めている。このスタイルは移民大国で人種もバラバラ、人口も増え続けている米国だからマッチしているのであって、人口減少・高齢化の日本が形だけ真似しても上スベりするだけだ。

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