「客が来ないから、バイトのシフトを勝手にカット」はOKなのか? 労働条件を変更したがる企業の“2つの誤解”知識不足ではトラブルに(6/6 ページ)

» 2022年09月06日 11時30分 公開
[研修出版]
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社員の納得感を得るために経営陣も報酬の減額を実施する

 代替措置の検討と併せて社員の納得感を得るために実施すべきポイントが、経営陣にも痛みを伴う変更を行うことです。

 会社業績が悪化したことを社員に説明し、会社の状況が危険であることが伝わったとしても、労働条件の引き下げ、賃金の減額といった人件費を下げることが社員にのみ強いられるとしたら社員は納得ができません。

 例えば、新型コロナによる業績悪化により賃金の減額を検討した際に、役員報酬には手を付けずに今までと同じ報酬額が保障されるような状況であれば、社員の納得は得にくいのではないでしょうか。他にも、役員が、多額の交際費を使用し会社経費を散財している、役員のみ福利厚生が高待遇のまま守られている、といった状況もあります。

 なお、役員報酬の減額については、税務上の取り扱いのルールもあるため、顧問税理士に相談をしながら進めることをお勧めします。

同意書などの文書で合意の証明を残しておく

 丁寧な説明により社員の納得が得られたら、同意ができたことを書面に残しておきます。文書のタイトルは同意書でも合意書でも構いません。あくまでも重要なのは、同意した内容が書かれた中身です。

 なお、同意について口頭でも十分なのか?という点については、同意書のような書面がない場合は、同意したことを証明するものがありません。そのため、後になってトラブルになり、労働者から「同意はしていない」と主張されるリスクがあります。しっかりと書面を整備しておきましょう。

就業規則を変更し、社内に周知する

 社員の同意を得た後は、就業規則の内容を変更します。ここで押さえておきたいポイントとして、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効になってしまう」というルールです。言い換えると、就業規則と個別の労働条件の内容を比較したときに、就業規則に書かれている条件の方が良い場合、就業規則が優先して適用される、ということです。

 このルールがあるため、社員と個別に労働条件の引き下げについて合意ができたとしても、就業規則を変更しないで以前の内容のまま放置してしまうと、それらの変更に関する合意は無効となってしまいます。労働条件の引き下げにおいては、就業規則の変更と社員の同意を得ることがセットで必要になります。

 なお、就業規則を変更した後は、労働者代表者から意見書を提出してもらい、就業規則変更届と併せて会社の管轄の労働基準監督署に届け出ます。控えを提出することで1部は受付印を押されて返却されるので、社内で保管しておきましょう。

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 労働条件の引き下げにおいては、就業規則や雇用契約書といった現在の労働条件のルールがどのようになっているかが非常に重要になります。しかし、就業規則については、一度作成してから改定しておらず実態と合っていない、雇用契約書の内容と就業規則の内容で整合性がない、といった状況がよく見られます。

 労務担当者としては、日頃から実態にあった規則や契約書を整備しておくことを心掛けましょう。

 就業規則や雇用契約書の改定に向けて、労務担当者としてまずは社内に改定内容の提案を行うことが考えられます。その際、顧問の社会保険労務士がいる会社であれば、整合性のチェックや法改正に対応できていない点をリストアップしてもらい、社内での提案資料に活用してもよいでしょう。

 社会保険労務士のサポートが受けられない場合は、厚生労働省のWebサイトなどから法改正の情報やパンフレットを入手し提案に利用することや、専門家の書いた記事を社内に紹介するといったこともアイデアとして考えられます。

 本稿が無用な労務トラブルの回避のための参考となれば幸いです。

志戸岡豊(しどおか ゆたか)/社会保険労務士

特定社会保険労務士。コントリビュート社会保険労務士法人代表。長崎大学を卒業後、化学メーカーへ就職。その後、社労士事務所勤務を経て2011年に独立。独立後は、中小企業の就業規則に注力。最近は、勤怠管理や給与計算をはじめとした中小企業の労務管理のIT化・クラウド化や人事評価制度の構築、IPOに向けた労務管理体制の整備といったサポートを実施中。【近況】最近、あるきっかけで馬に興味を持つことになりました。ギャンブルとは無縁の人生ですが、馬を見にレジャーとして今度競馬場に遊びに行ってみようと計画中です。

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