白書では、同社が実施した「仕事に関するアンケート調査」(92年8月)の結果も一部公開、共有しています。
本部・商品部に勤務する社員からは、「上向き志向(上司の顔色を見る)の弊害」「個人の能力を伸ばそうとする姿勢の欠如」「経営方針が見えてこないことから、会社の将来性に対する不安感」「現状打破の心意気が感じられない」「経営陣がその先頭に立っていない」「ムダな会議、ムダな資料が多すぎる」などの不満や不安の言葉が寄せられました。
そして、「この会社に将来性はあるか」という質問に対して、83年は93.5%の人がYESと答えていたのに、92年には31.3%まで落ちていました。
「社員を大切にしているか」という問いに、83年は34%がYESだったのに、92年では13.5%にまで落ちていました。
エンゲージメントが地に落ちていたというのは、この数字が表しています。
このような状況を受けて、和田氏は幹部と社員に次のようなメッセージをだしています。
幹部には「社員の前でつらいとか大変だとか愚痴やボヤキをこぼすな」と伝えました。社員には「このような思いを持たせてしまった原因は経営層にある」と断言しながらも、「『逃げない』『ごまかさない』『諦めない』という気持ちと姿勢で問題とぶつかれば、必ず解決の糸口を見い出すことができるから、楽(らく)しよう、かっこよく見せようなどとはするな」(以上、白書より一部抜粋)と厳しく伝えています。
同時に「飽きっぽい、継続できない、徹底できない西武百貨店の体質は欠陥商品である」とも表現しています。当時はびこっていた西武百貨店の体質を、社員自ら本気になってつぶしていかなければならない、そのためにはオーナーが作ってきたカルチャーすらも変えていくことを厳しく伝えています。
こうしたメッセージを見ていると、当時の西武百貨店の置かれた状況というより、今の日本の企業全体が抱えている問題のようにも見えてきます。
和田氏は、下記のような構造改革骨子を具体的に整理し、これまでタブーだった内容にもメスを入れていきました。とてもシンプルに見えますが、長年聖域とされてきた商慣習や会社の問題点にも踏み込みました。そして、利益を生み出すための攻めの営業改革、必要のないコストを削減する守りのコスト構造改革の実践を提案したのです。
そして最後に、「なんでもオープンに話せる社風づくりを実行し、信用できる人間関係の復活と、社員を大切にできる社風・風土をつくろう」と締めています。まさに従業員エンゲージメントを高めるという宣言です。
以上のような現状把握と情報の共有を、幹部はじめ全社員に対して行い、社員のやる気を引き出していったというのが和田氏の改革骨子です。
その後、和田氏が取り組んだそごう改革でも「新生そごうのために」という改革レポートをまとめました。西武百貨店白書と同様、そごうの会社の在り方、特に百貨店としての店の在り方は完全にまちがっていた、ゆでがえる状態だという率直な提言をしています。売り方、品ぞろえの考え方、店に立って販売する接客やサービスの在り方、そこに配置する人材や本社人員の多さや非効率さなど、かなり細かく指摘をする内容でした。
しかしこの提言によって、そごうの再建は大きく前進。03年に、2年前倒しで再生手続き終了となりました。
その後、西武百貨店とそごうが合併してミレニアムリテイリングへ。06年にはミレニアムリテイリングはセブン&アイの完全子会社に。07年にミレニアムリテイリング傘下の主力店舗の改装をほぼ終えて、経営が軌道に乗り始めると、同社の会長職とセブン&アイHD取締役を和田氏は退任されました。
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