「巨大で成長している市場」だけど油断は禁物 ヘルスケアビジネスで勝ち残る8つのポイント目指す方向性とは(3/3 ページ)

» 2022年09月29日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]
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どのポジションを目指すのか

 次の図を見てください。横軸は提供するサービスが単一か総合的か、縦軸は貢献する対象が多いか少ないかを示しています。病気の予防・対策とは、早期検査をすることのみを指すのではなく、食事、運動、日々のデータ管理など多岐にわたります。

ヘルスケアサービスのポジションイメージ

 病気もがんだけではなく、糖尿病や心臓病、脳梗塞からストレス性胃腸炎、精神障害まで幅広く存在します。ヘルスケアビジネスの総合的な意義あるゴールとは、多角的な健康サポートを行う右上のポジションであると推測されます。また、このポジションに至るには、さまざまなビジネスを統合する推進力とサービスの認知と信頼性を高めるブランディングも重要視されます。

 単一の診断キット販売を最大化させる戦略も一つの道です。N-NOSEのように精度が高ければそれも可能ですが、その技術が未成熟な場合、消費者、医療関係者、企業など全てのチャネルからの発注が満足に得られない状況に陥ります。

 また、ヘルスケアビジネスに参入するにあたって、健康管理アプリやヘルスケア情報メディアでマネタイズを図ろうとするアイデアも挙がりやすいかと思います。情報メディアとは、病気や予防に関する基礎知識、検査キット、健康食品、フィットネスサービス、データ管理サービス、病院情報などが総合的に掲載されているサイトのイメージです。しかし、有料課金や掲載料による収益化が本当に実現できるかは懐疑的です。生活習慣病関連アプリの市場規模は21年度で4.8億円という試算も出ており、大変小さなマーケットです。アプリの有料課金や情報サイトに掲載するだけで毎月掲載料を取るというモデルでは、おそらくビジネスが行き詰るでしょう。逆に、アプリや情報サイトを無料で提供し、圧倒的掲載量を価値にしてサービスの格を創る方が得策といえます。

 運動分野に参入する際、フィットネス企業との連携は有望な候補として挙がります。例えば、自宅用のフィットネスバイクを購入してもらい、毎月オンライントレーニングやレースに参加できるサービスと連携させ、サブスク収益を付加することなども考えられます。

 ちなみに、このサービスを提供しているのは米国の有力スタートアップであるペロトンです。同社は2019年にIPOしています。ペロトンは、タブレット付きフィットネスバイクやトレッドミルの購入者に対し、オンライントレーニングをサブスクで提供しています。コロナ禍でも会員数は167万人と3倍に増加しており、20年の売上高は18億2600万ドルに達しています。

 ヘルスケアビジネスで勝ち残るポイントを下記の通り整理します。

(1):単一サービスではなく健康を総合的にサポートするという理念・コンセプト

(2):その複合的サービスを自社の力だけではなく他社と共創する

(3):診断キットの精度の高さ、データ管理、診断・データ結果に応じた対策の情報提供は必須

(4):アプリや情報サイトのマネタイズに依存せず、極力無償提供として自社ブランディングコストとして位置付ける

(5):特定の疾病のサポートから入り、そこから顧客データ管理、他の疾病対策へと波及していく

(6):オフィスチャネル開拓のために健保、生協、福利厚生サービス企業と連携する

(7):医療機関、大学などと共同研究することでデータのエビデンスを強固にしていく

(8):自社のビジネスを継続させるためにも、単発単一で終わらせないユーザーの健康を継続サポートするサービスを開発する

 巨大かつ成長著しいマーケットが成功しやすいわけではありません。その代表的な市場がヘルスケア市場です。

 (1)〜(8)を推進することには、さまざまな困難が伴うことが予想されます。しかし、自社のやりやすい範囲で考察して成功できるほど、ヘルスケアビジネスは簡単ではありません。成功ポイントに合わせて自社を変化させていく必要があります。

 製薬会社、食品会社、医療機関、オフィス、健保、小売、IT企業、ベンチャー企業などが連携せずそれぞれがサービスを乱立させるとどうなるでしょうか。消費者にとっては情報が散在することになり、自分に必要なソリューションにたどり着かないという状況を生み出します。

 これほど各産業が連携し合うことが大切なビジネスはないのではないでしょうか。

 命に関わる意義ある事業だからこそ、今後の各企業の技術開発と技術連携が拡大することを願ってやみません。

 最後までお読み頂きありがとうございました。

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