岸田政権は10月4日、発足から1年を迎えました。今回のレポートでは、岸田政権の1年を振り返り、株式市場がどのように反応してきたかを検証します。岸田文雄氏は、2021年9月29日の自民党総裁選で新総裁に選出され、10月4日の臨時国会で第100代内閣総理大臣に指名されました。当時の日経平均株価は、政局好転の期待から、2021年9月14日に年初来高値となる3万670円10銭をつけていました(終値ベース、以下同じ)。
しかしながら、岸田政権誕生の直後、日経平均株価は21年10月6日、2万7528円87銭まで下落する展開となりました(図表1)。背景には、岸田首相が掲げていた金融所得課税の見直しに対する強い警戒があったとみられ、岸田首相は10月10日、金融所得課税の見直しは当面考えていないと述べました。10月31日の衆議院議員選挙では、自民党が単独で絶対安定多数を獲得し、政権基盤が固まると、日経平均株価も徐々に持ち直しました。
岸田政権は21年11月19日、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を閣議決定しました。経済対策は、成長と分配の好循環を目標に、新しい資本主義の起動など4つの柱からなり、財政支出の規模は過去最大の55.7兆円となりました。日経平均株価はこの時、2万9000円台後半で推移していましたが、新型コロナウイルスのオミクロン型が新たに検出されたとの報を受け、12月初めにかけて2万7000円台後半まで下落しました。
22年に入ると、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や、それに起因する資源価格の高騰などが、世界経済に大きな影響を与えました。各国の金融市場にも動揺が広がり、日経平均株価は3月9日、年初来安値となる2万4717円53銭をつけました。国内にも物価上昇の動きが強まるなか、岸田政権は22年4月26日、「コロナ禍における原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を閣議決定しました。
22年7月10日の参議院議員選挙では、自民党は単独で改選定数の過半数を獲得して大勝し、岸田政権は長期政権となる可能性が高まりました。岸田首相は9月30日の閣議で、総合経済対策の策定を閣僚に指示し、11月の成立を目指す模様です。また、岸田首相が掲げる「資産所得倍増プラン」の柱となる、少額投資非課税制度(NISA)の恒久化も、年末までに制度設計が決まる見通しです。
このように、岸田政権はこの1年間で、2つの選挙で基盤を固め、2つの経済対策を打ち出しました。ただ、新しい資本主義の実現にはまだ道半ばで、日本経済の潜在成長率を高める効果的な政策の実施が待たれます。日経平均株価はこの1年、外部環境の影響を大きく受けたため、岸田政権に対する評価は判断しにくい状況です。ただ、最近の内閣支持率低下は気掛かりで(図表2)、今後、相場の材料となることも想定され、引き続き要注目です。
旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。
© 三井住友DSアセットマネジメント
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