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債務超過で「突然の経営危機」──GMO安田CFOが、乗り越えられた理由対談企画「CFOの意思」(5/5 ページ)

» 2022年10月28日 16時00分 公開
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 しかし、ここで終わったわけではありませんでした。当社がローン会社に貸し付けていた56億円が回収できなくなり、56億円引き当て問題も出てきてしまった。またしても債務超過になってしまいそうなとき、まずヤフーさんとの業務資本提携の話が進んでおりました。しかしながらこれだけでは足りない。熊谷はどうしていたかというと、実はこの時点まで会社を支えるためにかなり私財を投入していたため、キャッシュが残っていなかったのです。

 しかし、年内に増資しないと、債務超過に陥ってしまう。そこで、プロフェッショナルからのアドバイスを受け、熊谷が保有する不動産の現物出資(金銭以外の財産で出資すること)をすることにしたんです。

嶺井: ウルトラCの技を繰り出したわけですね。

安田: そうですね。しかし、現物出資には「財産填補(てんぽ)責任」があります。例えば、土地や不動産を10億円と見積もって出資したが、実際は5億円だった場合、現物出資に賛成した取締役がその分を支払わないといけません。そのようなリスクのある意思決定ですが、役員全員の賛成で実施しました。

嶺井: それは役員の皆さんにとって、賛成しづらいですよね。会社のことを考えたら賛成したいけど、手を挙げたらリスクを取ることになる。 想像するだけでヒヤヒヤしますね。この危機を乗り越えるに当たって一番大事だったことは何でしょうか?

経営のあらゆる問題を、成長が癒やす

安田: 振り返ってみると、経営危機を乗り越えられたのは、会社が成長していたからというのが最大の要因ではないかなと思います。会社が成長しているから、皆さんが助けてくださる。

 99年から2021年までの連結業績の推移のグラフを見てもらっていいですか。

嶺井: 伸び続けていますね。

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安田: そうなんです。売り上げが37億から2414億へ、経常利益は7億から410億へ、パートナー……GMOインターネットグループでは社員をパートナーと呼んでいますが、その数は138人から、現在は7000人を超えています。

 なんだかんだ言ってもやっぱり持続的な成長をしているので、金融事業から撤退しても、インフラやメディア事業のキャッシュフローがあったから銀行に残っていただけたというのが、本質的な部分ではないかなと思います。他の事業が伸びていなければ、危機を乗り越えること、持ちこたえることはできなかった。

 企業のいろんなチャレンジは、成長していないとできない。チャレンジの原資は成長で、経営のあらゆる問題を成長が癒やす、というのが本質的なところではないかなと実感しました。

嶺井: 何かあっても、事業がしっかり成長していれば、それを乗り越えられるということですね。

 実際、金融事業からの撤退でも、その後のマイニング事業再構築の際も、成長があったから難なく乗り越えていかれた。

安田: どちらかというと、痛みを伴いつつ、成長していたおかげで、なんとか乗り越えた、ということですかね。

 ただ、これも成長しているからチャレンジできたという話ですよね。成長を続けていると、PLの余力とBSの厚みが出てくる。チャレンジのためにどこまで張れるか、どれだけバッファーがあるかが重要。大きなチャレンジは、成長があるからこそだと思っています。

 もちろん、チャレンジした結果、経営危機があったわけですが、そこから学びつつ、諦めずにチャレンジするのがGMOインターネットグループならではかなと考えています。

CFOとしての役割変化

嶺井: ものすごい成長を遂げる企業の中で、CFOとしての役割にはどのような変化が見られたでしょうか。

安田: 最初は決算短信やIR資料を作成したり、M&Aのプロマネをしたりするなど、自分で手を動かすプレーヤーの役割を果たしていましたが、組織が大きくなるにつれ、優秀なメンバーが入ってきた。そのため、現場で手を動かすのは、決算説明会での登壇や、Smallや1on1の機関投資家との面談程度へと変わってきました。

 今は、熊谷がグループ代表をしており、西山(裕之)と僕が副社長でグループ代表補佐をしている。西山はCOOグループ代表補佐、僕はCFOグループ代表補佐。GMOインターネットグループにおける経営上の重要課題は、まず熊谷、西山、僕の3人に同期され、月曜会(いわゆる常務会)、取締役会、経営会議と即日に同期される。そういう意味では、グループを成長させる仕組みづくりというところに、仕事の内容がシフトしているともいえます。グループ経営を成長させる各論を西山と僕で手分けする。ただ、ファイナンス系が僕の方に厚めに集まってくるイメージはありますね。

嶺井: 会社の成長とともに安田さんの業務が、現場からマネジメントへ、マネジメントからグループを成長させていくための構造作りへと移っていったということですね。

安田: そうですね。ただ、すでにグループ会社のメジャーなところは上場しているので、自走しています。きちんとした組織ができているので、手をかけるところがない、それぞれが自走できる経営スタイルになっているかと思います。

経営幹部3人は「考え方を常に同期」

嶺井: 熊谷さんと安田さんの関係はどのようなものでしょうか。お互いが力を発揮できるように気を付けてらっしゃること、2人で決めていることはありますか。

安田: お互いに何を考えているのかを、熊谷と僕だけでなく、西山も含めて常に同期することを大切にしています。

 例えば、3人だけのLINEグループがあり、99%は仕事の話ですが、プライベートについてもコミュニケートしている。

 コロナ禍に入る直前には「武漢でコロナがはやっているらしいね」という休日の情報交換から「春節が来る前に、渋谷オフィスへの出社を取りやめて、在宅勤務にしなくちゃだめかな」という仕事の話に変わっていき、休日に緊急の経営会議を開催して、日本企業の中でも最速で、コロナ禍対応のための在宅勤務の意思決定をしよう、という流れになりました。

 会社の中での重要案件や課題を3人でシェアして、それを意思決定にかける、というのが、僕たちの関係性ではないかと思います。

 後編では、門外不出のGMOイズムに迫る。熊谷社長が考え出した「55カ年計画」、そして目標達成が当然のGMO式経営とは?

後編はコチラ

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