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GMOの根幹にある「55カ年計画」とは? 安田CFOが明かす、市場や売上起点ではない経営対談企画「CFOの意思」(1/2 ページ)

» 2022年10月28日 16時30分 公開

連載:対談企画「CFOの意思」

 ベンチャーの成長のカギを握る存在、CFO(最高財務責任者)。この連載では、上場後のスタートアップの資金調達や成長支援を行うグロース・キャピタルの嶺井政人CEOが、現在活躍するCFOと対談。キャリアの壁の乗り越え方や、CFOに求められることを探る。

 「CFOの意思」第6回の対談相手は、前編に引き続きGMOインターネットグループ副社長兼CFOの安田昌史氏。太陽黒点の周期に基づく「55カ年計画」と、目標達成が当然のGMO式経営とは?

門外不出のGMOイズムと「55カ年計画」とは?

photo 左からグロース・キャピタルの嶺井政人CEO、GMOインターネットグループの安田昌史CFO

経営危機について語った前編はコチラ

嶺井: 危機を経ることで、チャレンジの度合いに変化はありましたか。

安田: PL予実のマネジメントは早期から仕組み化しておりましたが、BSのマネジメントもとても意識するようになりました。連結で104社ありますが、全社で毎週毎週、連結PLの通期見通しベースの予実を出しています。もっとも、これは経営危機前の02年から20年間ずっと行っていることです。

嶺井: 全社で毎週出すというのはなかなかないケースではないでしょうか。

安田: 毎週、グループ会社の社長と役員が参加する「グループ幹部会」で、その数字を共有します。加えて、バランスシートの自己資本見通しや、リスクアセットの状況など細かなところまで共有していきます。500万以上動くとすぐにレポーティングされますね。このようにして、感度を高めています。

嶺井: グループ規模を考えると500万円という額は誤差の範囲ではないかと思えますが、その要因を議論するんですね。

photo GMOインターネットグループの安田昌史CFO

安田: そうですね。GMOインターネットグループの経営の本質の一つに、常に成長を目指すというものがあります。要は成長する仕組みをつくるということです。

 例えば、現在、GMOインターネットグループ本体を入れるとグループ会社が10社上場しています。もちろん、世間からは「親子上場ってどうなんだ」など反対意見も出ますが、僕らはグループ会社に上場しろとは言わない。彼らが「上場したい」と言ってくる。GMOインターネットグループっていうのは、言い換えるとアントレプレナーの集合体なんです。そのアントレプレナーたちが、より成長するためにマーケットを利用して成長する。そして上場会社の社長になったり、上場会社の役員になったりすることで、さらなる夢を持って、上を目指していく。それが作りたい企業グループの姿なんです。

 ですから、すでに上場している企業だと、「ストックオプションはどうなるのか」など課題も出ますが、それに対してもグループのポリシーがあり、各子会社が上場を実現できればそこで頑張ってくれたアントレプレナーたちはキャピタルゲインを得られる。

 最近グループジョインしたGMOサイバーセキュリティ byイエラエも、やはり「上場したい」という夢を持ってジョインしました。もし、僕らがただの大企業だったら、もしかしたら社内のセキュリティ監査部の役割を担っていたかもしれない。でも、彼らの事業と僕らの事業とでシナジーがあり、それによって企業価値が高まり、会社としての上場が実現する。

 当社グループで時価総額1兆円をつけたGMOペイメントゲートウェイも、最初に「グループジョインしても、絶対上場したい」と相浦(代表取締役社長 相浦一成氏)が話しておりました。当時、グループのショッピングカートの決済において事業シナジーを実現し、winwinの関係を構築して、上場も果たせました。今は完全に自走して、毎期25%の利益成長を実現しています。ある意味スイングバイIPOのはしりといえますよね。

嶺井: GMOペパボもそうですよね。

安田: そうです。家入さんとの出会いがあり、GMOインターネットグループなら上場できると。

 このような活性化が見られているということは、GMOインターネットグループのやり方は人のエネルギーの最大化につながる資本政策だと思います。僕らはグループ企業も含め、どうやって成長する仕組みをつくっていくか、というところに最近はフォーカスしています。

嶺井: シナジー効果により企業価値を高め、上場までもっていけるというメリットが、GMOにジョインするアントレプレナーにはある。その他にどんなメリットがあるとお考えですか。

安田: 上下関係のない仲間意識の強さでしょうね。GMOインターネットグループでは、「子会社」という呼び方をしない。それ以外にも、上下を連想させる用語を禁止しています。「社員」や「従業員」ではなく「パートナー」と呼ぶ、というのもそうですね。

 そのため、グループ会社のパートナーであっても、誰でも社員食堂を利用して無料で食事ができる、ジムやフィットネスを使える、といったように充実した福利厚生の恩恵にあずかれる。

 GMOインターネットグループに入れば、縦関係ではなく、連邦的なスタイルで経営でき、仕事をしやすいというのはメリットになるかなと思います。

 人を大切にするというポリシーを、GMOインターネットグループでは明確に打ち出していますが、こういうところにも現れているのではないでしょうか。

嶺井: 他のメガベンチャーとかなり異なりますね。アントレプレナーが集って、それぞれが独立して起業家として成長していける。

安田: 独立していると聞くと、自由にやっているのかと思われがちですが、共通しているのは一番大切にしている考え方と、集まってコミュニケーションを取ることの2つ。

 門外不出の「GMOイズム」というものがあります。定性ではGMOイズムのスピリットベンチャー宣言があり、これを毎週、幹部会で唱和しています。定量的なところでは、熊谷が96年を起点に作成した55カ年計画、2051年に「売り上げ10兆、利益1兆」の会社にするための事業計画を基に、毎年グループで予算を作る際、「今年は55カ年計画のこの位置だけど、こうなっている」というようなことを確認してから作業に入る。

 この「55カ年」の根拠は、コンドラチェフサイクルという景気循環の考えに基づいています。これは、太陽黒点の周期で景気循環サイクルができていると考えるものです。

 入社後に知って衝撃を受けましたね。通常なら市場規模からシェアや売り上げ、単価を計画していくのに、「お天道さんが回っているから達成しなくちゃいけない」という考え方なんです。太陽が東から昇って西に沈む以上は、やらなきゃいけないコミットメントなんです。「人類が乗ってきたサイクルにわれわれも乗り、インターネット革命が起きているだけ。だから当たり前にこの目標を達成できる」という。ビジネスモデルの前提が崩れたら考え直さないといけない事業計画とは異なるというところで、熊谷のすごさを実感しました。

嶺井: この55カ年計画の文書は、幹部以外でも見られるんですか。

安田: 全パートナーが手にとって閲覧できます。「グループ7000人全員で同期して消化して大切にしてね」という考え方なんです。この芯を通していれば、後は自主性に任せている。

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