テスラのジレンマは世界のジレンマフィデリティ・グローバル・ビュー(2/3 ページ)

» 2022年11月11日 08時00分 公開
[Daniela Jaramillo 他, フィデリティ・インターナショナル]
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投資家として認識すべき2つのポイント

 投資家として認識すべきことは2つあります。それは、(1)サステナビリティ(持続可能性)に最も優れた最もクリーンな鉱業会社であっても私たちが求めるものをすべて供給できないこと、そのため、(2)改善を促せると信じる企業にも投資しなければならないこと、です。

 多くの鉱業会社は、自社が取り組むべき課題を理解しています。しかし、直面する難題は年々増えています。こうした状況に対処できず地域社会やほかのステークホルダーからの信頼を失えば、電気自動車メーカーから地域の電力供給事業者に至るまであらゆる企業で、将来の電化に必要な金属が不足する危険性があるのです。

社会の信頼を勝ち得るために

 新しい鉱山に対する地域の反対運動は大きな課題となっています。英豪資源大手のRio Tinto(リオ・ティント)は、セルビアのジャダール渓谷でリチウム鉱山を開発しようとしていました。ジャダールはボスニアとの国境に近く、農業的、考古学的に貴重な価値を持つエリアです。

 このプロジェクトは中央政府の支援を得ており、向こう40年に渡り数千トンもの炭酸リチウムを生産するはずでした。しかし、環境汚染のリスクなどからNGO(非政府組織)や一部の地域コミュニティによる抗議がエスカレートし、セルビア政府は2022年1月にリオ・ティントの開発許可を取り下げました。ジャダールは、まれなケースではありません。米国では法的な問題によって2019年以降、アリゾナ、アラスカ、ミネソタの各州での主要な新規の銅プロジェクトが停止されています。

 単に法律を守るだけではプロジェクトを確実に前に進められない場合も多いです。社会的に操業が認められ、生産を維持し続けるためには、鉱業会社には多くのことが求められます。ステークホルダーの利益にかない、地域からの信頼を獲得し、社会の期待を反映した、より高度な事業運営が必要なのです。

投資家と企業は環境問題にどう向き合うべきか

 もう1つの大きな課題はもちろん、環境問題です。インドネシアは近い将来、新たに市場に供給されるニッケルの大半の供給源となる可能性が高いです。しかし、インドネシアでは発電の多くを石炭に依存しているため、インドネシア産ニッケルの炭素強度(カーボンインテンシティ、注)は高いことが多いです。また、鉱山開発は森林を破壊し、生物多様性に影響を与えます。

(注):企業の収益百万米ドルあたりの炭素排出量を測定したもの(tCO2e/百万米ドル(収益))で、企業の炭素効率が分かる指標。炭素排出量を、生み出すエネルギーの量などで割って計算する場合もある。

 投資家として、フィデリティ・インターナショナルはすでにいくつかの企業とエンゲージメントを実施しています。こうした企業では、再生エネルギーの導入や膨大な量にのぼる産業廃棄物の管理といった面で情報開示が進み、また実践するなどの改善が見られています。この難題に終わりはなく、金融・資本市場の担い手である私たちには難しい選択が待ち構えているかもしれません。

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