テスラのジレンマは世界のジレンマフィデリティ・グローバル・ビュー(1/3 ページ)

» 2022年11月11日 08時00分 公開
[Daniela Jaramillo 他, フィデリティ・インターナショナル]
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 鉱物資源の開発などを手掛ける鉱業会社が事業運営上の社会的、政治的、環境的リスクをどう管理するかは、ネット・ゼロ(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)への移行に必要な金属を供給できるかどうか、という点で極めて重要です。地域社会やほかのステークホルダーからの信頼を失えば、電気自動車メーカーから地域の電力供給事業者に至るまであらゆる企業で、将来の電化に必要な金属が不足する危険性があります。

 米電気自動車メーカーのTesla(テスラ)がインドネシアからニッケルを50億ドル分購入する契約を結んだというニュースがありました。詳細は明らかではありませんが、このような取引が行われたことは私たちにとって、重要なことを示唆しています。

 数ある環境問題の中でもインドネシアのニッケル生産は深刻です。最悪の場合、1トン当たり世界平均の3倍もの二酸化炭素を排出します。テスラは二酸化炭素の排出量がより少ないニッケルを購入すると見込まれますが、環境への配慮を自負する同社にとって、そのカーボンフットプリント(注)は大きな意味を持ちます。とはいえ、主要な電気自動車メーカーとしてバッテリー用の金属を長期に渡って確保する必要がある(図表1)上、選択できる供給源も限られるのが現状です。

電気自動車と従来型の自動車それぞれで利用される鉱物の量

 電気自動車だけではありません。世界が電気、再生エネルギーへとシフトする中、ニッケルやリチウム、コバルトなど鉱物への需要は今後30年間で急激に増えると見込まれます(図表2)。鉄鋼のような、すでに多く利用されている金属の生産量も増加すると想定されます。

 ニッケルに関して言えば、追加的に必要となる量の大部分はインドネシアで生産されるでしょう。テスラのジレンマは世界のジレンマでもあります。移行に伴い重要な原材料の供給がひっ迫するにつれて業界を取り巻くコミュニティはその社会的、環境的コストへの懸念を強めます。鉱業分野は事業の運営と拡大がより複雑な産業となるでしょう。

IEAの「Sustainable Development Scenario」における鉱物の総需要の見通し
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