──米国法を選択していた場合についても聞かせてください。米国法は、比較的、解雇が自由だと言われますが、今回の大量解雇について、日本の法律で縛ることはできなくなってしまうのでしょうか?
佐藤氏: そうとは限りません。米国法を選択していた場合であっても、労働者が、労務を提供すべき地の中の、特定の強行規定(解雇に関するルール)を適用すべきと意思表示した場合、原則、そのルールも適用されることになっているからです(同法12条)。
──つまり、社員側が「日本の法律を適用してほしい」と意思表示すれば、原則そうなるのでしょうか?
佐藤氏: はい、その通りです。以上が原則ですが、例外として、「契約に最も密接な関係がある地の法」が日本法ではなく米国法であると認められてしまうと、日本法は適用されません。
── あらためて、日本の解雇に関するルールを教えてください。
佐藤氏: 労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。
米ツイッター社のイーロン・マスク氏は、今回の大量解雇について「深刻なコスト上の問題のため」であると説明しているため、いわゆる整理解雇に当たります。
整理解雇は、使用者(企業)側の都合による解雇です。そのため、解雇の有効性について厳格に判断すべきと考えられており、日本の裁判所では、(1)人員削減の必要性、(2)解雇回避措置の相当性、(3)人選の合理性、(4)手続きの相当性といったポイントを踏まえて有効性を判断しています。
今回の大量解雇についても、こうしたポイントを踏まえて評価した結果、解雇が無効になる可能性は十分あるでしょう。
以上が佐藤弁護士へのインタビュー内容だ。外資系企業といえば、給与が良く労働条件が魅力的な一方で、突然の解雇に文句も言えない──そんなイメージを持つ人が多いかもしれないが、日本の労働法が適用されるケースは決して少なくなさそうだ。
とはいえ、企業が大量解雇を実施する場合、退職金の割り増しや訴訟などの準備があることも考えられる。実際にマスク氏は4日、解雇された全員に対し、法的に定められているより50%多い退職金を提示したことを明かしている。
一方の解雇された社員たちの中にも、集団訴訟や団体交渉のための動きが見られる他、こうした動きをTwitterで呼びかける弁護士なども見受けられる。混乱の余波はどこまで続くか。
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