中東地域初のW杯となるカタール大会。今大会が日本のスポーツ中継におけるターニングポイントになる可能性がある。
前述のように02年日韓大会以降、5大会連続でW杯放送の主導権を握っていたのはテレビ(特に地上波)だった。日韓大会では全64試合を生中継する権利をスカパーが獲得し、一部の試合は地上波で無料視聴できない事態に。テレビ業界にとって1つの転換点となった。
その後の大会では地上波、BS、CSなどで全64試合を視聴できる時代が続いたが、放映権料が年々高騰。各局の経営に影響が出るようになり、スカパーは10年南アフリカ大会を最後にW杯放送から撤退した。
14年ブラジル大会、18年ロシア大会では、2大会続けて全64試合を地上波で放送した一方で、前回大会からはNHKと民放各社は「NHK 2018 FIFA ワールドカップ」と民放公式テレビポータル「TVer」(ティーバー)を使った配信を開始。W杯放送にネット配信の要素が加わった。
そして、カタール大会では、地上波テレビ局主導ではない形で全64試合の放送が実現する。踏み込んだ言い方をすれば、これはサッカー中継における“地上波1強”の時代の終焉と言えるのではないか。
実際、W杯に次いで、人気が高いとされる国際大会のEURO(欧州選手権)は、これまでTBSやテレビ朝日が地上波で放送してきた歴史があったが、21年大会(本来は20年開催だったがコロナ禍で1年延期)から地上波放送がなくなり、WOWOWによる独占放送となった。カタールW杯最終予選の地上波放送もホーム戦のみになるなど、サッカーのジャンルで地上波放送が果たす役割が徐々に縮小しているのも事実だ。
人気や規模でW杯と双璧をなす、夏季五輪でもネット配信へのシフトが顕著となっている。日本民間放送連盟(民放連)の発表によると、オリンピック公式動画サイト「gorin.jp」と 公式テレビポータルサイト「TVer」での東京五輪の動画再生数は、過去最高を記録したという。
21年2月に電通が発表した広告費に関する調査では、ネット広告費が「テレビ・新聞」を上回った。加えて、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが2021年12月に発売したネット動画視聴特化型のチューナーレステレビが、“NHK受信料を支払わなくていいテレビ”として話題になり、一時、売り切れ店舗が続出するなど記録的なヒット商品になった。
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ABEMAのW杯放送が成功すれば、スポーツ中継のネットシフトがさらに加速する可能性がある。試合の結果だけでなく、事業者の放送環境を巡る動向にも注目が集まりそうだ。
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