仮にメディアから取材がなされ、質疑応答や記者会見などが行われる場合は、もっとも注意すべきタイミングとなる。そのやりとりを見聞きすれば、トップが本当に組織を掌握できているかどうかが分かってしまうからだ。
ポイントは、「現場で起きていることについて、具体的な知識をもって語れているか」「どの部門がどう対応するか、組織の役割分担を把握しているか」「責任のあるリーダーシップを発揮できているか」といった点である。一つでも欠けると、一瞬にして説得力がないと判断されてしまうだろう。
一般的な対外説明機会においては、「事実報告」までは比較的よく行われているが、以降の「原因究明」「責任所在」まで示されることは多くない。事件発覚からコメント発表までの間に十分な時間がないケースもあろうが、ここはぜひ責任と今後の対応まで明確に示し、事象がクリアになった時点で「収束宣言」までやり切ることを求めたい。
そこまでやり切れば、組織の信頼を取り戻すことにもつながるだろう。事実関係の説明を踏まえ、追加で提供できれば望ましい情報としては次のようなものが挙げられる。
ここまで述べてきたのは広く一般向けへの情報発信の指針であるが、必要に応じて各ステークホルダーへの報告や情報共有もおこなっておくことをおすすめする。
まずは監督省庁だ。法的に報告が義務付けられていないケースであったとしても、事象説明、原因分析、対処内容、再発防止指針等について報告しておくとよい。信頼関係を維持構築していくためにも有効だ。
同様に、株主や投資家が存在する場合も、株主総会を待たずに情報共有しておくとともに、業績や株価に与える影響についての見通しや、経営陣の引責方針(辞職や役員報酬返上など)を伝えておくことが望ましい。
また、基本的に対外的な説明や苦情対応は広報窓口に一本化しているとはいえ、場合によっては営業所や店舗の近隣住民や利用客、取引先などから直接苦情や抗議を受ける可能性もある。どのような形態であっても、組織として統一的な対応がとれるように、手渡しできる定型の説明文書を用意したり、問い合わせ対応用のQ&A資料などを事前に作成して各拠点に配布したりすることも有効である。
危機管理広報とは、ここまで見てきた地道なプロセスの着実な積み重ねによって成し遂げられるものだ。ノウハウが生かされる場面は極力訪れてほしくないものだが、関わる個々人全員の判断と言動が組織のレピュテーションを左右するという自覚を持ち、誠実かつ丁寧に対応されることを祈念したい。
そして不祥事は決して隠蔽せず、問題の根源となる仕組み自体を見直し、変革していくための貴重な機会と捉えて、生かしていきたいものである。
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員にまつわるトラブル解決サポート、レピュテーション改善支援を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。
著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『クラウゼヴィッツの「戦争論」に学ぶビジネスの戦略』(青春出版社)
12月1日に新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)を発売。
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