テレワークにオンライン会議など、新たなスタンダードが登場した現代は、これまでのビジネスの前例だけでは、カバーしきれなくなった時代です。そんな時代には、日本人が古くから狭い茶室で対面していたときにはどんな配慮が求められていたかを参照してみることにも、意味があることでしょう。
本連載では、現代のビジネスシーンでも応用できる、茶道に伝わる格言をご紹介します。
「和敬清寂」の四文字は、茶道の精神を凝縮した言葉ともいわれています。利休時代の文献には典拠が見つからず、成立に関しては諸説があります。しかし、この言葉に関しては、成立を詮索するよりも、四文字の一字一字が独立して意味を持っているところに特徴があり、それぞれの意味をきちんと受け止めることが大切です。
四文字のいずれもが、茶席において求めるべき理想的な在り方は、私たちの心の在り方にあると説いています。その応用範囲は、茶席の中にとどまるものではありません。心構えのヒントと受け止めれば、職場や取引先との人間関係や、仕事に対する姿勢に日々悩むビジネスパーソンにも、示唆を与えてくれます。
「和」の英訳はharmonyとするのが一般的ですが、peaceではないかと思われた方もおいででしょう。意味領域は両者にまたがっています。ついでに、「ピース」といって笑顔になることも思い出していただければと思います。こちらの表情が硬いと、相手の心も固く閉ざされたままで、よい関係にはなれません。
また、「和」と聞けば、「和を以って貴しとなし」という聖徳太子の憲法十七条の冒頭の文句が思い浮かびます。隣人と仲睦まじくすることも「和」ですけれども、天下泰平の基礎としての「和」という考え方が、古くから示されていました。先人が「和」を説いたときの根底にもそれがあったことに思いをはせることが大切です。
単に「他人と仲良くしましょう」というレベルで受け止めてしまうのは残念です。「和」とは他者とともによく生きることを指しており、他者とともによく生きることを学ぶことが大切であることが、礼節として説かれてきたということにまで思い起こしたいものです。
「自分よし、相手よし、第三者よし」という「三方よし」という考え方も「和」の考え方の延長線上に導かれたものです。近江商人の理念を示すキャッチフレーズとして知られる「三方よし」は、自社や顧客の利益だけを求める企業は評価されなくなってきている現代にも通ずるところがあります。SDGsやESGが重要視され、その取り組みを投資家から評価される昨今では、こうした理念に反する企業は評価を得られません。また社会的な信頼を裏切るようであればいかなる大企業といえども、大きなしっぺ返しをくらいます。
今日(こんにち)、「三方よし」の言葉は戒めになりうると同時に、社会全体の安定・繁栄を実現させるという視点が不可欠と人々に認識させます。「第三者」を大きく捉えれば地球環境、小さくとらえれば自分が働いている部署やグループです。ビジネスパーソンとしての成長にあわせて、「第三者」として調和をとる対象の視野を広げていけばよいのではないでしょうか。「和は、三方よしで実現する」という視点を提起してみたいと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング