ミスタードーナツはドーナツ専門店では唯一の全国チェーンで、一部地域では競合店があるが、ライバルが不在の会社である。業界のガリバーであるだけに、安定した売り上げが取れそうなのだが、そうはならないのがビジネスの難しいところだ。
競合というと、一番の脅威となったのはコンビニだ。コンビニでは、類似した商品を今も実際に販売している。
振り返ればテスト的なドーナツの販売を経て、14年11月には「セブン-イレブン」がレジ横にドーナツケースを設置し、本格的にドーナツの市場を取りに来た。年間6億個、年商600億円を目指すとぶち上げた。競合の「ローソン」「ファミリーマート」などのコンビニも対抗上、山崎製パンなどと組んで、軒並みドーナツを強化してきた。当時は、コンビニ発のドーナツ戦争といわれ、第二次のドーナツブームが到来した。
コンビニ、とりわけセブンは100円コーヒーのお供として、ドーナツが売れると踏んだのだ。
このドーナツ戦争は、コンビニの思惑通りに商品が売れず、2年ほどでレジ横のケースが撤去され、個別包装の商品に戻った。ドーナツの陳列場所も、総菜パン・菓子パン売場に統合されていった。
防戦に追われたミスタードーナツにも後遺症が残った。ドーナツという商材そのものが消費者から飽きられたのが、ミスタードーナツが売り上げ不振に陥った要因だった。
ところが、コロナ禍によって感染予防のために、店内飲食よりテークアウトが推奨されるようになり、テークアウトに強いミスタードーナツが見直されるようになった。
従ってミスタードーナツの直近10年の売り上げ推移からは、「コンビニの攻勢からの防戦→ドーナツ市場のシュリンクへの対処→コロナ禍での再評価」という一連の流れが見える。
ミスタードーナツの店舗数は現状1000店を少し切るほどだ。14年当時はもう少し多く1300店を超えていた。復活には多くの不採算店を整理しなければならなかった。
一方、コンビニの店舗数は当時から5万店を上回っていた。現状は5万7000店ほどだ。ドーナツ市場を狙って、40倍近くもの店舗数があるコンビニが一斉に襲いかかってくるのだから、ミスタードーナツにしてみれば、たまったものではなかった。
コンビニに売っていない「クレームブリュレドーナツ」のような差別化商品を開発。飲茶も中華の鉄人、陳建一氏が監修する商品を販売するなどの企業努力で、なんとかコンビニドーナツをレジ横ケースから撤退させたものの、ブームが去れば、コンビニと同様にサーッと顧客が引いて行った。
コンビニからはドーナツが消滅したかと思うほど急速に存在感を失ったのに対して、ミスタードーナツの売り上げが4分の1程度しか減らなかったのは、専門店の強みがあったから。低迷期も根強いファンが、ミスタードーナツの売り上げを支えた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング