昨今の第三次ドーナツブームを牽(けん)引しているのは、近年になって新規参入し、コロナ禍の中で人気店になった面々だ。代表的なショップに、福岡出身のアイムドーナツ、フランス料理店が母体のラシーヌなどがある。
アイムドーナツは、福岡と東京に店舗がある人気ベーカリー「アマムダコタン」を展開する、ヒラコンシェ(福岡市)が手掛けた店。アマムダコタンはマリトッツォを流行らせたことで知られる。アイムドーナツ1号店は今年3月18日、東京・中目黒の高架下「蔦屋書店」の一角に誕生した。常時、行列が絶えず、クリスピー・クリーム・ドーナツが上陸した頃のような熱気を感じる店だ。5月30日には、渋谷に2号店をオープンしている。
アマムダコタンが昨春から発売して評判になっていた、ブリオッシュ生地の「生ドーナツ」を専門にして、独立させた。8種類の商品があり、プレーンの店名を冠したアイムドーナツは、とろけそうなふわとろな食感が特徴で、カボチャを練り込んだ生地にもほのかな甘味がある。
また、20年9月にオープンした東京・池袋の「ラシーヌ ブレッド&サラダ」という、ベーカリーとサラダの店では、21年2月1日から無添加の手づくりドーナツを発売。毎日、25種と豊富な種類を1000個販売する体制で、ドーナツファンを喜ばせた。
経営するグリップセカンド(東京都豊島区)は、21年9月には東京・青山に「ラシーヌ ドーナツ&アイスクリーム」、同年12月には東京・目白に「ラシーヌ ブレッド&ドーナツ」を立て続けにオープンさせた。母体となっている池袋のラシーヌは、焼きたてパンとビストロ料理が楽しめる店だが、飲食店はコロナ禍では厳しい。テークアウト需要が高いドーナツに着目して成功した。
世間からドーナツの話題が乏しくなって、忘れられた頃にやってくるドーナツブーム。今回は、飲食の素人ではなく、ベーカリーやレストランで実績のある会社が、無添加などのこだわりを持って展開しているのが特徴だ。
クリスピー・クリーム・ドーナツも、コロナ禍でテークアウトに強いドーナツの性格を発揮して、ドーナツブームにも後押しされ、売り上げが伸びている。不採算店の整理が完了してきた18年3月期に、既存店売り上げがプラスに転じて以降は、多くの商業施設が閉まっていた20年の緊急事態の頃を除いて、1店舗当たりの売り上げは上昇基調にある。
22年9月末の店舗数は59店で、1年後までに2桁の新規出店を予定している。クリスピーの場合は、スーパーなどにキャビネットを設置して、顧客との接点を増やした効果が出た。キャビネットの数は160台を超えている(22年9月末時点)。
今回の第三次ドーナツブームは、前回のブームような、コンビニと専門店の死闘のごとき殺伐としたつぶし合いはなく、顧客の間でミスタードーナツが行ってきた改革の見直しが進んで、売り上げを押し上げている。
クリスピーのような同業者にも、波及効果が広がっている。
しかし、ドーナツがもうかるとなると、ここにコンビニが再び乱入してくる可能性も無きにしもあらず。ブルーオーシャン化していたドーナツ市場が、一転してディストピアと化すリスクを秘めている。
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
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