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「学歴フィルターは努力の結果」と思い込んでいる人が知らない、残酷すぎる真実河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)

» 2022年12月23日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

ブラックボックス化する学歴差別

 この学歴差別を真正面から描いたのが、1983年にTBS系で放送されたドラマ『ふぞろいの林檎たち』です。ドラマは、「ちょっとだけランクの低い大学生」が就職も恋愛もうまくいかず、自分の大学を名乗ることもできず、居場所を失っていく……。そんな学歴社会が生んだ「劣等感」に多くの人たちが共感したのです。

 一方で、今行われている「学歴フィルター」なるものは、差別する方にも、される方にも「生々しさ」がありません。

 就活が完全にデジタル化したことでブラックボックス化し、企業は「知らぬ存ぜぬ」で簡単に否定できるし、学生の心に残るのは「落とされた」という現実だけ。学歴で差別されてる気がするけど、「差別された自分の学歴」を受け入れたくない。これが「学歴フィルターか?」と「?」マークをつける深層心理です。

就活のデジタル化によりブラックボックスと化した学歴差別(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 そもそも昨今の就活問題の本質は、「決まらない厳しさ」ではなく、受けては落ちる、受けては落ちる、といった就活の仕組みそのものにあります。

 「何十社も受けないと決まらない」のではなく、「何十社も受けるのが常識になっている」から、余計に決まらない学生を量産し、彼らを苦しめているように思えてなりません。

 もちろん、受ける自由というものはあってもいいでしょう。しかし、企業側がうたう「機会平等」は社会へのアピールでしかないのです。企業側の建前によって「いくつもの会社を受けまくらなきゃ、本当に内定はもらえない」という奇妙な常識が学生の間にまかり通っているのは、明らかにおかしい。

 その奇妙が常識になったのが10年ほど前です。

 世界金融危機やリーマン・ショックなどの影響により景気は後退した09年、卒業予定の学生の内定が取り消されるという事態が続出しました。10年には大学卒業者の就職率は前年卒を7.6%下回る60.8%まで減少し、1948年の調査開始以来最大の下げ幅でした。

 そうです。この頃から「受けて、受けて、受けまくる」が就活の常識になってしまったのです。

 当時の私のメモには、以下のようなことが書かれています。

  • 企業の採用担当者に「夢は?」と聞かれ、「3年生の時から、就活ばかりで、内定をもらうことしか考えていなかったので、夢は……、ないです」と答える学生の姿が、夜のニュース番組で報じられた。
  • 内定をもらえず、自殺する学生がいる
  • 内定がもらえない学生たちをインタビューしたところ、「何がいけないのか分からない」と答える学生が9割超
  • 「自己分析をやり直して、『これか!』と、“落ちた理由”らしきものが分かる。で、自信を取り戻して再び面接に行くんですけど、また落とされる。その繰り返しです。すると結局、何が問題なのかも分からなくなる。どんなに就活アドバイザーから指導されたように頑張っても、ちっとも次につながらないんです」(学生談)
  • 「完全に負け癖がついてる。親と一緒にお祓いまでしてもらった」(学生談)

 あらためて振り返ると、就活って、いったい何なんだ? と。

 「数打ちゃ当たる」みたいな就活はいい加減やめた方がいいし、「どうぞ、学生!」「ぜひ、わが社に!」とめったやたらにエントリーする学生を増やすのも不毛です。

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