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サントリー・日本生命に続く企業は……? 賃上げムードが高まらない根本的な理由働き方の見取り図(4/4 ページ)

» 2022年12月26日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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 一方、会社側も社員に対する認識を変えられればさまざまなメリットを享受できます。社員と同じく三重苦にありますが、それは同業他社も同じです。三重苦の中で人件費をコストと見なし続けている限り、賃金は出来る限り抑えるべきものになってしまいます。

 しかし、賃金を上げることで社員が抱えている三重苦や不安感を一掃し、思い切り仕事に打ち込める環境を提供できれば、社員もまた会社のために自分は何ができるのかという思いで仕事に向き合いやすくなります。

賃上げを「コスト」ではなく「投資」と捉える企業の狙い

 それが社員のパフォーマンスを引き上げ、会社に対するロイヤルティ向上にもつながる可能性を高められるなら一石二鳥です。いま有効求人倍率は20年11月以降上昇の一途をたどっています。

 一方で少子化も進んでいるため、将来に向けて労働市場は採用難の度合いをさらに強くしていくと考えられます。そのような採用難の労働市場において、社員のロイヤルティを高められる会社は他社より優位に立つことができるはずです。

 サントリーの新浪剛史社長は、6%賃上げ方針を出した際に「これからもイキイキとやりがいをもって働いてほしい」とコメントしました。日本生命も、賃上げについて投資だとするスタンスを表明しています。賃上げをコスト増ではなく投資と見ていると捉えると、先手を打って賃金増を表明している会社の狙いが見えてきます。

画像はイメージ

 会社も社員も物価・賃金・増税の三重苦に苛まれて硬直状態にある中で、現状認識を捉え直し、行動を変えられた会社が一歩先に進み出ることになります。会社は社員のために何ができるか、社員は会社のために何ができるか。会社と社員が対立して互いに奪い合うのではなく、お互いのために与え合う関係性を構築できた時、三重苦の環境下においても前向きな姿勢が生まれる可能性が高まります。

 連合は早々に、5%の賃上げ要求を23年春闘の方針として掲げました。それも賃上げ機運を高める上で、重要な要因の一つだと思います。しかし、労働組合の組織率が20%に満たない中、日本中で賃上げ機運を高める上で根本的に必要なのは、会社と社員双方がお互いへの期待感を高め合うことなのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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