過労死が社会問題として認識されるようになってからも、悲しい事件が後を絶ちません。11月17日、毎日新聞が「日本製鉄社員『過労自殺』 残業急増、上司叱責も 労基署認定」と題した記事を掲載しました。
亡くなった社員は未経験の業務を命じられた後、担当範囲も増えて前月比で残業時間が3倍に急増していたそうです。業務負荷がかかる状況で無理して頑張っていたところに上司からの叱責が加われば、心身ともに疲弊し追い詰められてしまうことになります。
厚生労働省のパンフレット「労働者の健康を守るために」には、長時間労働と健康への影響について以下のように記されています。
「長時間の残業など過重な労働が続くと、脳・心臓疾患を発症するリスクが高まることが医学的に知られています。長時間にわたる過重労働の下では、労働者が疲労を回復することができなくなり、疲労を蓄積してしまうことがあります」
過労自殺について報じた同じ日に毎日新聞は、会社が社員に長時間労働を求めたとする記事「マスク氏『激務が嫌なら退職を』 ツイッター社員にメールで通告」も掲載しました。Twitter社を買収したイーロン・マスク氏は、社員に「長時間の猛烈労働」を求める姿勢を明確にして、それが受け入れられない社員に退職するよう迫ったとされています。
紹介した2つの記事で報じられている会社の姿は、長時間の猛烈労働を巡って対照的です。最初の記事では、会社が長時間の猛烈労働を求めて取り返しのつかない事態を引き起こした責任を追及されています。それなのに、マスク氏の記事では、会社が長時間の猛烈労働を推奨しているのです。
高い成果を出し、競争に勝ち抜くため、これまで会社が社員に長時間の猛烈労働を求めることは珍しくありませんでした。そのスタンスは、スポーツの世界で監督やコーチが選手に猛練習を求める姿と重なります。大会で上位に行くほど猛練習した者同士の対戦となるため、そこでの戦いに勝ち抜くためにはさらなる猛練習が求められます。
会社も日々生き残りを賭けて戦っています。もし会社の業績が上がらず、他社との競争に負けて倒産するようなことになれば、社員は働く場所自体を失ってしまうのです。会社の業績や存続に責任を持つ立場である経営者や管理職が社員に長時間の猛烈労働を求めることは、その是非は別としても、生き残っていくためには致し方ない面があることは否定できません。
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