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「長時間の猛烈労働」要求 イーロン・マスク氏をまねても上手くいかない理由望ましい人事戦略とは(3/4 ページ)

» 2022年11月25日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 右下の「能力を有していない×長時間の猛烈労働を希望しない」カテゴリーの人材は、能力不足でかつ長時間猛烈に働くことも望んでいないため、会社としては求めている水準のパフォーマンスも能力面の不足をカバーする猛烈労働も期待できない「不適合人材」です。

 先ほどの記事によると、マスク氏は長時間の猛烈労働を受け入れない社員に3カ月分の手当を支払って解雇する方針を示しました。それは一見、生活がある社員に対し、まるでいらなくなった部品をポイ捨てするかのような安易な姿勢を示したように見えます。しかし、上記4つのカテゴリーに整理すると、実は会社と社員がWin-Winになる可能性があること、また、マスク氏自身が大きなリスクを負っていることなどが見えてきます。

マスク氏が負った大きなリスクとは?

 ポイントは2つ。1つは、長時間の猛烈労働を受け入れない社員を無理に雇用し続けるのではなく解雇していること。日本では違法と考えられる問題大アリの措置ですし、育児や介護などで家庭の制約を受ける人たちを排除するスタンスだけに差別的に思えます。しかし、今後の職場で生じるであろうストレスを考えた場合、過度なストレスが社員にかかる状態を回避する施策でもあります。

 今後、全社員に長時間の猛烈労働を課すと決めた以上、Twitter社は右側のカテゴリーにいる能力適合人材や不適合人材には、極めて高いストレスがかかる職場になることは確実となります。そのことを承知して残った社員は長時間の猛烈労働を受け入れているので、基本的に会社との関係はWin-Winです。ただし一方で、強引な人員整理に対する非難や法的リスクを背負わなくてはなりません。決して、安易にできる決断などではないはずです。

画像はイメージ(ゲッティイメージズ)

 もう1つのポイントは、社内に残す対象を絞り込んだこと。すでに社員の半数以上を解雇していると言われていることから、求める能力を有していない下2つのカテゴリーにいる社員は解雇の対象になったと推察されます。つまり、今後戦力として見なせるのは左上のカテゴリーに該当するハイパー人材のみということです。これは、人員体制を構築する上でやりくりが極めて難しい状況に自らを追い込んだことを意味しています。

 余剰人員の削減が主な目的だとしても、雇用する対象者をハイパー人材に限定するのはリスクが伴います。稀少な人材だけに、他社に移ってしまう可能性もあるはずです。想定以上に社員が辞めた場合、新たに採用しようにも難易度が極めて高くなります。

 戦力をハイパー人材に限定するという人事戦略は、魅力的な仕事を用意して働き手から圧倒的支持を得られる自信がある会社でないと不可能です。決して安易に選択できる手法などではありません。「マスク氏がやっているから、当社も長時間の猛烈労働推奨だ!」と気軽にマネしてしまうと、ほとんどの会社は大ケガすることになります。

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