「東京都杉並区で、全く無名の新人が区長選を制しましたが、あれが起こったのは杉並区という街だからという理由もあります。あり得ない仮定の話ですが、同じ能力を持った人が立候補しても勝つ街、負ける街があるのです」
勝敗を左右するのは人口構成比だという。人口の流動性がなく、昔ながらのやり方を変えようと思わない人が多数を占める自治体では、それまでと異なる施策を掲げる候補者は選ばれにくい。
確かに複数の自治体で歴代首長を眺めてみると、代々役所職員、地元の有力者が続けてトップになっている自治体もあれば、外から来た若い人、女性が就任している自治体もある。誰を首長に選ぶかは、その街の姿を現すものと考えられるところがあり、これから住む街を考えるのであれば歴代首長を一度見ておいても損はない。
だが、街の有力者が代々首長を務めているからといって、その街が停滞しているわけではないのも難しいところ。逆に革新的な子育て支援策で人口が増加している街では、特定の年代が特定の時期に流入することで将来、一気に高齢化が進む懸念もある。一見市民に優しい施策が、将来も優しいとは限らないのだ。
子育て期間の一定時期だけ住むなら、子育て支援策が充実していれば良いのだろうが、そうではなく、長く住む、高齢になっても住み続けるつもりなら、いろいろ見るべきものはある。経営者としての現在の首長はもちろん、現在の施策の将来への影響、地域の人口構成比とその変化など、チェックするべきポイントを挙げれば、膨大な数になるだろう。
文中でも挙げた通り、これらの多くはビジネスの知見と重なる。その意味でビジネスに精通した人ほど街の運営に向いているといえるし、街選びにも能力を発揮できるかもしれない。不動産的視点だけでなく、ビジネス視点で街を論じる人が出てくれば街選びが変わるのではないか、期待しているところである。
中川寛子(なかがわ ひろこ/東京情報堂代表)
住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。路線価図で街歩き主宰。
40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
主な著書に「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。
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