高まる「中国リスク」に日本はどう対処すべきか ジャック・マー氏の見せしめにビザ停止の追い打ち世界を読み解くニュース・サロン(3/3 ページ)

» 2023年01月12日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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世界でも高まる「チャイナリスク」 けん制する欧米

 日本の場合はすでに述べた通り、10年以降の尖閣問題などによる反日デモなどでチャイナリスクに直面してきた。ただここ最近では、世界でも同様のチャイナリスクは高まっている。習近平国家主席がトップになった後の15年、中国政府は「中国製造2025」を発表した。中国がそれまでの世界の工場という立場から、25年までに先端技術をけん引する国になるという宣言だ。その野心に警戒感を強めた米国は、18年から本格的に中国との貿易戦争を始めた。

 また欧米と中国で政治的な揉め事があると、中国側が製品ボイコットする「キャンセル・カルチャー」も広まった。21年に世界190を超える民間企業などが新疆ウイグル地区での綿花栽培をめぐる批判声明を発表すると、中国側が「ナイキ」「H&M」などの欧米企業をボイコットする動きを見せた。

 問題は、中国政府に都合の悪いことを言うと、中国政府の意向によって企業のビジネスに多大なる悪影響が及ぶと見せつけられる結果になったことだ。

 結局、「デカップリング」という言葉と共に、欧米の企業が中国から撤退を考慮するようになった。米大手コンサルティング会社 WTW(ウイリス・タワーズワトソン)の調査では、現在、多国籍企業の95%はインド太平洋地域、とりわけ中国での政治的リスクを懸念していると答えている。20年にこの数字が62%だったことを考えると、多くが中国リスクをこれまで以上に懸念していることが分かる。

 こうした状況に加えて、米国が仕掛けている対中の経済戦争は、今後、激化することはあっても、落ち着くことはないだろう。

米中の経済戦争が落ち着くことはないだろう(画像はイメージ)

 トランプ前政権から続いている関税もそのままに、特に注目なのは、中国が国を挙げて強化したい半導体分野に対する厳しい輸出管理措置も強化していることだ。半導体の製造開発だけでなく、米国や日本、オランダが支配する半導体の製造装置、関連ソフトウェアや人材までも、中国とビジネスをする際には、米政府の許可が必要となる。

 この規制は許可制とは言っているものの、実質的に、禁輸措置と見ていい。先端技術などで中国は大打撃を受けることになるため、中国政府は22年12月12日に対中輸出規制が不当であると、WTO(世界貿易機関)に提訴したほどだ。

 半導体関連で規制が強化されると、半導体の自給率の低い中国は、先端技術などで製品製造が難しくなり、経済的な大打撃を受ける。これに対して、先日も、ラーム・エマニュエル駐日米大使が、米国は、半導体の台中輸出規制をさらに強化するために、日本とオランダ、韓国と話し合いをしているとインタビューで語っている。新たな経済戦争が進行しているのである。

中国包囲は日本にも影響

 こうした中国包囲網は、日本にも影響を及ぼす。米国とビジネスをする上で、中国企業ともつながることは、米政府も企業もよしとしない。事実、コロナ前に話をした元・米情報機関関係者は、ある日本の電子部品大手を名指しして、米国側はこの企業と中国とのつながりを憂慮しているので、米政府関係の調達には歓迎しないと言っていたことがある。

 米中の争いに巻き込まれる日本について、「アメリカを信用し切っていいのか」「アメリカが中国に負ければ日本はどうするのか」といった指摘をしている日本の著名人などもいるが、逆に、有能な起業家だったジャック・マー氏などを政府の強権で骨抜きにする国と深く関わっていくのも考えものではないだろうか。

 23年5月19日から広島で開催されるG7広島サミットでも、対中輸出規制などが議題になる。23年、日本企業にとって中国との付き合いは難しいものになるだろう。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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