マーケティング・シンカ論

学校数が減る中、老舗黒板メーカーが過去最高売り上げを記録 なぜ?黒板以上・電子黒板未満(2/2 ページ)

» 2023年02月08日 08時00分 公開
[堀井塚高ITmedia]
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最初は鼻で笑われた

 坂和社長がワイードを開発したのは、電子黒板が活用されていない実態を知ったのがきっかけだった。文部科学省が学校の耐震化・エコ化・ICT化を目指す「スクールニューディール構想」を打ち出した2009年以降、電子黒板を導入する学校は増えた。ところが、電子黒板を活用した授業で成果を上げている学校は3割程度しかない。教師のITリテラシーが不十分なところへ電子機器だけを導入しても結局は無用の長物になってしまうのだ。

 「そんなとき、プロジェクターの映像を投影した黒板にチョークで書き込むという手法を思いついた。黒板を廃止するのではなく、そのまま利用しながらデジタルとアナログの良いところを取り入れた」と坂和社長は説明する。

ワイードは黒板の上部に取り付ける。板書の際に教師の手が影にならないようにする工夫だ

 サカワにとってはプロジェクターの開発だけでなく、販売も初めてのことだった。黒板とプロジェクターでは販売先が違うのだ。坂和社長は「黒板は建築資材なので建築業者や設計事務所が販売先だったが、プロジェクターを学校に導入する場合は教育委員会などでの入札になる。販売ルートもゼロから構築した」と当時を振り返る。「1年目は四十数台しか売れなくて……黒板屋がいきなりプロジェクターの販売を始めたということで、黒板業界では鼻で笑われていた」(坂和社長)

 ワイードは教育関係の展示会に出展することで認知向上を図った。坂和社長は「教育ICT展には10年連続で出展している。当初はブース1コマだったが、いまでは出展社の中でも大きい部類になった」と話す。また、教師同士の口コミもワイードの認知向上に貢献しているという。公立校の教師の場合、数年おきに転勤がある。前の学校でワイードを使っていた教師が、転勤先の学校で導入を勧めてくれるケースも多いそうだ。

 プロジェクターを開発・販売しているメーカーはいくつもあるが、黒板用プロジェクターの市場に参入しないのだろうか。坂和社長は「黒板に映像を投影したいというだけの非常にニッチな市場なので大手は参入してこない。一方で、黒板メーカーとしてのノウハウを持っていないベンチャーでは現場の教師が求めるプロジェクターは作れないと思う」と話す。

 「サカワは従業員数30人前後の小規模な会社なので、小さな市場でも十分にビジネスとして成り立っている」と坂和社長。国外展開も考えているとのことだが、現状では手が回らないという。一つの自治体が導入を決めると、その自治体の管轄にある学校にはすべてワイードが導入される。その台数は学校数×教室数となるため、サカワは数百台のワイードをまとめて受注することになるわけだ。ワイードの導入に伴って、より映像がきれいに映る黒板に交換するケースもあり、同社の「ブルーグレー黒板」の売り上げも伸びているという。

プロジェクターの映像が見やすいように、表面に特殊な加工を施してある「ブルーグレー黒板」

 「自治体単位で言えば、(ワイードの導入を決めたのは)まだ数パーセントにしかならない」と坂和社長。つまり、市場のまだ1割にも普及していないということだ。大手が参入しないニッチな市場、ベンチャーが参入しにくいクローズドな市場は、地方の黒板メーカーにとって広大なブルーオーシャンだった。

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