このように考えると、ゼルダ新作の価格7900円は、バブル崩壊前のゲームソフトにおける価格相場に回帰しているということもできるだろう。「失われた30年」に象徴される物価の下落基調が、ここにきて戻りを試しているようにも思える。
長らく物価下落の憂き目に遭っていた日本において、値上げは客離れを引き起こす主要因でもある。しかし、ゲームソフトの値上がりは必ずしもデメリットばかりではない。
例えば、値上がりによって転売が減るといった効果が期待できる。
そもそも、日本でこれだけ騒がれている「転売」が、米国や欧州であまり問題として浮上することが少ないのは、需要に対する製品価格の決定が比較的効率よく行われているのが一つの要因である。
これまでゲーム業界が値上げに慎重だったのは、「売上本数」との兼ね合いが要因に挙げられる。ゲームソフトは、売上総額よりも、販売本数が人気のバロメーターとしてクローズアップされがちである。
従って、継続的な値上げによって売上高が成長しても、需給の観点で絶対的な販売本数が右肩下がりになってしまうと、「同社のゲーム人気にかげりが出た」というセンセーショナルな考察が入ることもある。
しかし、値上げを行わなければ、当然ゲーム会社は利益の確保が難しくなる。ゲームソフトのクオリティーは年々大きく上昇しており、そのために多くの人材や技術が必要となっている。また、ゲーム業界においては、PCゲームやVR機器といった業界垂直方向の競合が激化しているだけでなく、TikTokやYouTubeといった可処分時間を争う水平方向での競争も激化していることから、今後も値上げのトレンドは変わらないだろう。
同様の構造を抱えていた業界として、「映画業界」が挙げられる。今ではチケット単価の値上げと成長を両立している映画業界だが、かつてはゲーム業界と似た境遇にあった。ゲーム業界の売り上げに相当する「興行収入」よりも「観客動員数」がプロモーションの点でアピールされたり、マスメディアにおける「映画ランキング」の評価基準に据えられていたりしたからだ。
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