後日、鎌倉市の都市計画課にも電話で取材した。確かに、地域住民に迷惑がかからないよう、17年4月から警備会社に警備を依頼しているという。
土日とゴールデンウィークに加え、コロナ前までは中国の大型連休シーズンである、春節と国慶節にも警備員を配置していたそうだ。「水際対策が始まった20年からは、春節・国慶節期間の警備は中止していました。しかし今後の客足によっては(警備の)復活もあり得るかもしれません」
ちなみに鎌倉市として、SLAM DUNK人気を観光需要につなげるコラボイベントなどの予定はあるか聞いたところ、「これまでも、今後も予定をしていません」とのこと。
あの踏切に人が集まってしまうのは仕方ないとして、さらに観光客を呼び込もうというのは選択肢に入っていないようだった。
踏切に訪れる観光客の熱狂とは対照的に、自治体の反応は拍子抜けするほど冷静だった。他の地域では、ひとたび何かの作品の聖地として注目を浴びようものなら、自治体を挙げて「町おこし」に取り組むところも少なくない。人気アニメ『ガールズ&パンツァー』の聖地でおなじみの茨城県大洗町は、その成功例の筆頭といえるだろう。
また20年7月に発売し、世界全体の売上累計が800万本を超えたゲーム「Ghost of Tsushima」の舞台となった対馬市は、同ゲームとコラボし、公式サイトの開設やグッズ展開などで盛り上げようとしている。対馬はコロナ前、韓国をはじめとする外国人観光客に人気のあった場所だ。コロナ後、より広い層の観光客を誘致するために、聖地巡礼ニーズを起爆剤にしたい狙いがうかがえる。
鎌倉市がSLAM DUNK需要に前のめりになっていない理由は、主に2つ考えられる。
一つはここが「聖地巡礼需要」のうまみが少ないエリアだということだ。先述した通り、踏切の周辺は飲食店や土産もの屋はほとんどない。それらが目当てなら一駅以上歩かなければならないため、わざわざここに観光客を集めても仕方がないのだ。
もう一つはやはり、地域住民への安全を重視した結果だろう。無暗にイベントを開催して制御できない人数が集まってしまうと、住民トラブルや交通事故などのリスクが当然高まるため、致し方のない判断だ。
しかし、過疎化が進む地方では、とにかく観光に来てもらうためのきっかけづくりが先決だ。「聖地をつくる」ために、映画やドラマの撮影地として誘致する自治体もある。そういった他の地域の事情と比較すると、鎌倉市の「余裕」を感じずにはいられない。
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