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「紀土」を一流ブランドに押し上げた平和酒造 “最適解”でない渋谷で酒イベントを開催する理由山本典正社長に聞く(3/3 ページ)

» 2023年03月10日 07時48分 公開
[乃木章ITmedia]
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日本酒は唯一無二の国際ブランドになり得る 

――ベトナム最大規模のクラフトビールメーカー「East West Brewing Co.」の日本酒蔵設立プロジェクト(ホーチミン市)に醸造技術提供の形で参画したのも、日本酒を広める狙いがあったからでしょうか?

 そうですね。そこに関して会社としての売り上げは見込んでおらず、日本酒を広めるための活動の一環として重きを置いています。

 今の日本国民にとって国民酒が何かと言うとビールになるんですよ。それはもう販売数量としてビールが圧倒的に多いですから。注目すべきなのが、日本におけるビール大手メーカーといわれるアサヒ、サッポロ、キリン、サントリーが全て国内メーカーであることです。国内メーカーが作ったビールを非常に多くの方が愛飲している状況は、日本酒でも実現できると私は思っています。

 そのためにまず必要なことが、世界に日本の酒文化を広めていくことです。海外の方にまず知ってもらい、価値を感じてもらうところがスタートです。そして、ボトムアップすることができれば、ピラミッドの頂上がより高くなってより輝く。その高い部分こそ、日本酒が狙うゾーンじゃないかなと思います。

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――日本酒の海外出荷量は年々増加しています。海外での日本酒の広まりをどのように感じていますか?

 日進月歩の勢いで広がっていますね。先立って寿司や和牛など日本食がすごく広まって、「日本食はレベルが高いよ」と認識されるようになり、同時に「日本食に合う日本酒もすごくおいしい」と広まり始めました。今では海外でも都心だけでなく、地方にお住まいの方も日本酒を飲むようになって来ました。

 間違いなく、日本酒が世界で飲まれるようになった時に、日本に旅行に行きたい方が増えるでしょう。海外で作られた日本酒は「SAKE」と呼ばれていて、日本で作られた日本酒は「JAPANESE SAKE」と呼ばれているんですが、世界で日本酒ファンが増えた時に「JAPANESE SAKE」の価値が高まる。

 ワイン好きにとってのフランス旅行が「フランスに行く=ワインたくさん飲める」になるように、世界の日本酒ファンからすると、「日本に行ったら日本酒飲みまくれるじゃん。やった」みたいな流れになると思うんです。日本酒を求めて来日する人が増える可能性を秘めている、キラーコンテンツになり得るわけです。

 その状況を実現するためにも、世界各地で酒蔵が現地化するための種はまかれていくべきだと思います。すでに米国だとカルフォルニアという一つの州だけで6〜7つの酒蔵が生まれているんです。全世界で酒蔵が作られていく流れの中で、べトナムに関しては平和酒造もお手伝いをしました。

――日本酒が海外におけるワインのような立ち位置になった時に、海外との競争も予想されますね。

 日本酒作りに関しての技術は海外に持っていかれる可能性はありますけど、文化や歴史的な背景は持っていけません。そして、日本の水は世界でも類を見ないほどきれいでおいしく、日本の水を使った米も海外に持っていけません。なので、国際コンテンツになったとしても、半導体や車などと違って、日本の文化と歴史に根ざしているお酒は海外に負けない唯一のものなんですよ。そういう意味でも国際ブランドになるかもしれません。

――このような新しいチャレンジを続ける最大の目的はなんでしょうか?

 本来、酒造りをしっかりやることが本業なわけですから、「SAKE PARK(仮称)」もそうですが、本業以外はある意味でやらなくていいことだと思うんですね。究極で言うと、本業に集中した方が利益を得られる、利益が上がればもちろんうれしい。ただ、それだけだと組織としても業界全体としても閉塞感が出てしまうので、低リスクの部分でいろいろと面白いことをやっていく必要性があると思っています。

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photo マクアケの中山亮太郎社長(左)と山本社長
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