「ヤン坊マー坊の歌」のヤンマーが、ブランド訴求のために建てた「新社屋」の仕掛け根底に創業時の理念(3/3 ページ)

» 2023年03月24日 20時46分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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山岡社長「人材を育て未来に花を咲かせる」

 ヤンマー東京の開業にあたり、ヤンマーホールディングスの山岡健人社長は「ハナサカ」についてこう説明する。

 「『ハナサカ』とは、花が咲くのではなく、人に花を咲かせること。創業者の山岡孫吉が掲げた『美しい世界』を実現する理念のもと、あらゆる領域で人の可能性を信じ、挑戦を後押しすることで次世代の人材を育て未来に花を咲かせようという取り組みです。ヤンマー東京はこの人と未来の活動の基盤である『ハナサカ』の発信拠点のひとつにしていくつもりです」

photo ヤンマーホールディングスの山岡健人社長

 人に花を咲かせる……普遍性が高い崇高な理念といえるだろうが、それだけに抽象度も高そうだ。「ハナサカ」という企業理念をどう具体化させたのか、デザインに落とし込んだ佐藤可士和さんがこう振り返る。

 「『ハナサカ』の理念の本質を正確につかむのには時間がかかり、ビジュアライズする上で山岡社長とはかなり長い時間ディスカッションしました。『ハナサカ』は深い概念で、『人の可能性を咲かせる』ことだと僕は捉えています。それだけに、日本でもなじみのある言葉なんだと思います。

 ヤンマー東京のプロジェクトが始まったのは5年以上前なのですが、ロゴにしたのはあとの段階です。最初は桜ありきのデザインを考えていたんですが、大阪の新本社ビルの時に策定したヤンマーの新ロゴ『フライングY』をうまく組み合わせると桜のロゴになることに気付いたんです。それを『ハナサカ』のロゴデザインにしました」

photo クリエイティブディレクターの佐藤可士和さん

 「ハナサカ」のロゴは、ヤンマー東京のオープンと同時に披露された。建物内の空間デザインにも「ハナサカ」という企業理念が、佐藤可士和さんによって体現されている。

 そしてこの「ハナサカ」という理念が、食においては「米」という形で具体化されているというわけだ。中に入っている飲食店では具体的にどのようにこの理念が息づいているのか。2階の「ヤンマーマルシェトーキョー」にあるお米と楽しむイタリアンレストラン「ASTERISCO」のオーナーシェフを務める、奥野義幸さんはこう話す。

 「『米』という誰もが分かるコンセプトで、日本の食材や日本の良いところにフィーチャーしようという流れになっています。イタリア料理にも米を使った料理があり、そして私自身日本人なので、米を使ったイタリア料理のアレンジに何も困るところはなかったですね。東京駅の目の前にあるこのイタリアンレストランから、日本の地方の食材が持っている魅力を発信していきたいと考えています」

photo 「ASTERISCO」のオーナーシェフを務める、奥野義幸さん

 今後の展開について、ヤンマーマルシェトーキョーを運営するヤンマーマルシェの山岡照幸社長はこう期待を寄せる。

 「東京駅を訪れる国内外の人たちに、日本の食の魅力を発信していきたいですね。具体的には地方のグルメツアーをここでできるように、まずこの1年はいろんな食材をここに持ってくる形で展開していきたいなと考えています。そして熱いファンがついてきたら、ここを集合場所にして、新幹線やバスなどで実際に地方に行くグルメツアーができればとも思います。生産地の方、食を愛する人、料理人など、さまざまな『人』が交われる拠点にしていきたいですね」

photo ヤンマーマルシェの山岡照幸社長

 まさしくヤンマーは、人の可能性の花を咲かせる空間を醸成しようとしているわけだ。東京駅前という誰もが利用できる空間に、一企業の創業理念をここまで調和させようとする取り組みはあまり類を見ないだろう。企業ブランディングのある種の極致と言えるかもしれない。

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