「正義の承認欲求モンスター=カスハラ」に対応するには、どうすればいいのかスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2023年04月11日 10時02分 公開
[窪田順生ITmedia]

カスハラ客に「勝ちを譲る」

 九州にお住まいの方たちはなんとなく理解できるだろうが、海が隔てているだけで、実は東京よりも朝鮮半島のほうが距離的に近いので、太古の昔から朝鮮半島とは文化的な交流もある。おまけに戦前は日本式の教育を受けたので、実は物事の考え方も非常に近い。ハングルと日本語には意味も発音も同じものがたくさんある。

 感情的なわだかまりはあるだろうが、こういう国民性の似ている部分があることを素直に認めて、「先進国」から真摯(しんし)に学んでみるというのも、ひとつの手ではないだろうか。

カスハラ対策として、韓国の事例から学ぶべきことも(提供:ゲッティイメージズ)

 では、具体的にどのあたりを学ぶべきか。いろいろなご意見があるだろうが、個人的には「情に訴える作戦」がいいと思っている。

 韓国の某石油会社では、コールセンターに電話をかけると、オペレーターにつながるまでの保留音に、「これから私の大好きなママがご案内させていただきます」「これから私の大切で、働き者の娘が対応させていただきます」というアナウンスが流れるそうだ。これは実際にオペレーターなど従業員の家族の音声を録音したものだという。

 つまり、「今あなたが怒鳴って、罵声を浴びせようとしている人にも、生活や家庭があるんですよ」と伝えることで、怒りを鎮めてオペレーターに敬意をもって接することを狙っているのだという。

 これは日本のカスハラ客にも有効ではないかと、個人的には思う。先ほども申し上げたように、カスハラ客とは「正義の承認欲求モンスター」なので、「毅然とした態度でのぞむ」とか「理不尽な要求に屈しない」みたいな企業側の正義をぶつけると、「互いに一歩も引かぬ大激戦」になる。

 ロシアとウクライナを見ても分かるように「戦争」というのは「正義と正義のぶつかり合い」だ。互いに自分が絶対的に正しいと信じているので、間違っている相手を徹底的に攻撃できるし、相手は「正義に歯向かう悪」なので命を奪うことも、残虐なことも躊躇(ちゅうちょ)なくできる。

 カスハラ対策も同じで、正義を振りかざす客に、「店側の正義」で立ち向かうと「どちらかが屈服するまでの潰し合い」にしかならないのだ。

 だからこそ筆者は以前から、カスハラ客に「勝ちを譲る」という対策をお勧めしている。「正義」で暴走するカスハラ客というのは、店から賠償金をぶんどったり、土下座させることが本来の目的ではなく、自分の「正義」を相手が認めてくれればいいのだ。

 この「勝ちを譲る」という対策に「情に訴える作戦」は相性がいい。オペレーターに対して一通り自分の「正義」のお説教をする際にも、「この女性も家で小さな子どもが待っているのか」ということがチラリと頭の隅によぎれば、「まあ、今日はこれくらいにしてやるか」と正義とは何かを説く「お説教タイム」が短くなる可能性があるのだ。

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